視線を向けると、部屋の入り口に、男の人が立っていた。
知らない人。
でも、怖い雰囲気はない。
窓から差し込む月明かりに照らされた銀色の髪。
じっとこちらを見つめる穏やかな表情。
細身でスラッとした身体に似合った、黒いスーツ。
そして――深い、深紅のような赤い瞳。
その瞳を見て。雫の喉が、きゅっと鳴った。
……吸血鬼。
両親から教えられてきた言葉が、頭の中をよぎる。
人間とそっくりの見た目をしていて、唯一見分ける方法は瞳の色のみ。
夜に現れて人を喰らう、恐ろしい存在。
体が、強張る。
逃げなきゃ、と思うのに、動けない。
反射的に身を強張らせた雫に、男は少しだけ眉を下げた。
「大丈夫か。 森の中で倒れてたから、家まで運んだ」
その声に、敵意はなかった。
脅しも、嘲りもない。
ただ、心配しているだけの響き。



