森。
ざわ、と風が葉を揺らす音が、やけに大きく感じる。
雫はそこでようやく足を止めた。
「……はぁ……っ」
膝に手をついて呼吸を整える。
ルカも少し遅れて立ち止まり、周囲を見渡した。
しばらく、沈黙。
森の中は静かだった。
だが、それは“安全”の静けさではない。
逃げてきただけだ。
ただ、それだけ。
雫はゆっくり顔を上げた。
「……ここまで来れば、大丈夫……?」
その問いは、ルカに向けられていた。
ルカはすぐには答えなかった。
少しの間、空を見上げる。
そして、低く言う。
「……いや」
雫の胸が、わずかに跳ねる。
ルカは視線を森の奥へ落としたまま続けた。



