「……はぁ……」
呼吸が、整わない。
胸が、ひどく重い。
視界の端が、白く滲む。
――寒い。
夜風が、汗に濡れた体を冷やす。
雫は、両腕で自分を抱きしめた。
……ここまで来れば、もうあの家は見えない。
それだけで、少しだけ安心してしまった。
でも同時に、これからどうすればいいのか分からなかった。
お金もない。
行く宛もない。
――それでも。
雫は、後悔していなかった。
ここにいるのは、自分で選んだ結果だから。
視界が、ゆっくりと暗くなっていく。
まぶたが、重い。
眠ってはいけない、と分かっているのに、抗う力が残っていなかった。
最後に見えたのは、月に照らされた木々の影。
そして――
かすかな、足音。
人のものか、それとも、別の何かか。
雫は、それを確かめる前に意識を手放した。



