……なのに。
俺を恐れず。
殺すどころか、怪我を治して。
憎しみじゃなく、笑顔を向けてきた。
そんな人、今まで一人もいなかった。
なにもかも、初めてだった。
雫と過ごした時間。
初めて笑ったときの温かさ。
触れた手の温度。
隣で感じた、静かな安心感。
――全部、俺には分不相応だった。
雫みたいな優しい子は、こんな闇に沈む場所にいるべきじゃない。
だから。
「……ごめんな」
誰にも聞こえないほど小さく呟いて、俺はゆっくりと、
扉の方へ歩き出した。
背後で、雫の気配が薄れていく。
意識が遠のいていくのが、分かる。
それが、救いだと思った。
……そう思わないと、足が止まってしまうから。
扉の前に立つ。



