* * *
目の前の雫が、必死に手を伸ばしている。
力の入らない腕で、それでも行かせまいとするみたいに。
「……ま、って……」
掠れた声が、胸の奥に突き刺さる。
一歩でも戻れば、もう動けなくなる。
それが分かっているから、歯を食いしばって視線を逸らした。
――戻るな。
――振り返るな。
自分に言い聞かせるみたいに、何度も、何度も。
雫は、俺に数え切れないくらいの初めてをくれた。
「吸血鬼」としてじゃなく、「俺」を見てくれた女の子。
怪物でも、化け物でもなく。
怖れる対象でも、排除すべき存在でもなく。
ただ、一人の存在として。
誰よりも優しくて、誰よりも弱くて、それなのに、俺よりずっと強い人。
……俺よりも、ずっと大切な人。
――吸血鬼の味方と判断された者は、例え人間であろうと、
処刑対象となる。
その事実が頭の中で冷たく響く。
だからこそ、決めていた。



