「……っ」
雫は声を出そうとしたが、喉がうまく動かない。
ルカはそのまま部屋の奥へと足を進める。
物陰。
外からは見えない、奥まった暗がり。
ルカは雫をそっと寝かせ、身体を覆うように一瞬だけ身を屈めた。
その手が、雫の頬に触れる。
「……すぐ、戻る」
囁くような声。
それが、嘘だと分かっていても。
ルカは踵を返し、ドアの方へ向かう。
「……ま、って……」
掠れた声で、雫は必死に手を伸ばした。
けれど――
指先は、何も掴めなかった。
視界がゆっくりと滲んでいく。
音が遠のき、意識が沈んでいく。
痛みはもう感じない。
それほどまでに、限界を超えていたのだ。
薄れていく意識の中で。
雫が最後に見たのは――
振り返ったルカの姿。
切なげに、けれどどこか優しく微笑む、その顔だった。
(や…だ…行かな…いで…)
そう思った瞬間、世界は静かに暗転した。



