夢の中でも小さな幸せは存在する

 ピピピピ…ピピピピ…!
「ハッ…!?ここは…」
 枕元から鳴り響いたのは紛れもない僕のスマホ。現実に戻ってきたんだ…枕を見たら少しばかり涙で濡れている。感動的な夢だった…いや、良い旅だった…僕は大きくあくびをすると、いつもの階段を降り
「おはよう」
「おはよう…」
 僕は実家暮らしだ。この日は母親も仕事休みで洗濯物を畳んでいた。このときは12月で階段を降りるときの寒さと居間に入ったときの暖かさが肌を突いた。僕は洗面所の水道をお湯にして顔を洗う。
「今日どっか出かける?」
「今日はどこも行かないかな。母さんは?」
「ちょっと買い出し行かなきゃ夕飯もできない」
「俺も行くわ」
 コンタクトレンズをして着替えを済ませると、母は大きいマイバッグを持った。休みの日は大体僕が車を運転することが多い。
 ブーン…
「何ニヤニヤしてんの?」
「いや、ちょっと良い夢見てね」
「よく夢の内容とか覚えてるよねぇ?」
「また見たい夢だったよ」
 ブーン…カチッ…
 買い物に行くスーパーマーケットは大体決まっている。いつものスーパーに辿り着いて僕がカートを押す。
「夕飯何食べたい?」
「うぅ~ん…ロコモ…」
「ロコモコ?ハンバーグはこの前したじゃん?」
「違うな…オムライス!」
「オムライス?わかった。じゃあケチャップ持ってきて」
「わかった」
 カートを母にパスして僕はケチャップを探しに行き、そのついでに缶チューハイと缶ビールもカゴの中に。勿論、自分のお酒代はきちんと払った。そうして僕たちがレジの近くまで行ったとき…
「お母さんさ!今日は鍋食いたいな!」
「鍋?」
「シメはラーメン!」
「ラーメン?えぇ〜ママはうどんが合う豆乳鍋がいいなぁ〜」
 野菜のコーナーにいる一組の親子。子供は学生風で18歳くらいで母親は40代後半くらいの綺麗な女性。どこか、懐かしい顔だった…
「……」
「どうしたの?」
 僕は気付かれないように女性を見ていた。
「はぁ~いじゃあ今日は豆乳鍋で決まり!」
「ちぇっ…!豆乳もうめぇからいいぜ!」
「それにねぇ、チーズ入れたら倍々美味しいわよ!」
 チラッ…
 一瞬だけ目が合った気がした。夢の中で共に過ごした彼女とは別人かもしれないが、似ている女性を見て僕は
「やっぱり…普通の幸せが一番だな…」
「何か言った?」
「何でもない…ただの独り言だ…」
 僕は夢の中で小さな幸せを感じた。けれど、この先の人生、幸せは自分の力で創り出したい。幸せの意味を彼女が教えてくれた。幸せを創る…それこそが、"幸人"という一人の男の生き方なのかもしれない。改めて名付け親の母に感謝したくなった。
「ありがとな…」
「ありがとう?何が…」
「何でもない…」
 母は不思議そうに笑い、僕の方を振り向いた。母の笑顔を見て自然と僕も笑顔になっていた。