夢の中でも小さな幸せは存在する

 僕が自分の正体に気付き始めるキッカケは夕飯のロコモコを食べ終わったときだった。
「私先シャワー浴びるわね!」
「あぁいいよ!入ってきな」
「一緒に入る?」
「えぇっ!?いやいや大丈夫だよ…!」
「あらそう…?」
 ガチャ…シャー…
「はぁ…」
 このままこの世界に生き続けるのも悪くないと思えてきたが、この先もずっと自分の正体を知らないまま生きるのは腑に落ちない。
 プシャッ…ゴクゴク…
 ロコモコは美味しかったしお酒の味もちゃんと感じる。僕は夢を見ているとしか思っていなかったが、ここまで意識がハッキリしていると一つの考えが浮かんだ。今の僕は2006年に生きていた男性と入れ替わってしまったのではないか?どこの誰かはわからないが、僕が小学校2年生のときに一組の夫婦はこんな幸せな生活をしていたんだなと考えたら僕の心もホッとした。そう思ったがその直後、僕の考えを全否定する証拠に驚愕する…
「何だ…?」
 引き出しの上に並んでいるいくつかの写真立て。4枚ぐらいはあった。その中に一つだけ伏せられている写真があり、僕は吸い寄せられるように写真を見た。
「こ…これは…!?」
 僕は一瞬で言葉を失った。彼女と写っているツーショット写真なのだが、何とそこに写っている男性は
「嘘だ…僕は…!」
 それは紛れもなく、僕の顔だったのだ。特徴的な奥二重の瞼と口元、どう見ても僕だった…
「まさか…僕は2006年に住むもう一人の自分だったのか…」
 シャー…キュッ…ふきふき…
「ふぅ~…サッパリしたぁ〜…!」
 僕は夢中で問題の写真を眺めていた。僕は、一体誰なんだ…!?
「何してるの…?」
「わっ…!?」
 ガシッ…!
「見ちゃダメじゃない…!」
 物凄い剣幕の彼女に写真を奪われた。もう訳がわからなかった…自分の顔は鏡で見ても確認できないのに写真には僕が写っている。すると彼女が奇妙なことを言い出した。
「最後くらい…あなたと本気で愛し合いたいの…!」
「最後…?」
「……」
「教えてくれ…僕は誰なんだ?それにどうして君と一緒にいるんだ…?」
「どうしてって…私たちは夫婦だからよ…」
 しくしく…
 ギュッ…!
「お願い…!今日はもう何も考えないでほしい…!」
 ギュッ…!
 気付けば僕も抱き締め返した。夢の中にある小さな幸せ。今まで僕は同じような幸せを感じていたが、こんなにまっすぐな目で見詰められ、愛されることでこんなにも心が満たされる。見た夢はときに優しいことを教えてくれる…きっと僕にはこれから先も幸せになってほしい想いが込められている。それを証明するのは彼女の温もりだった。
「ねぇ、今日は一緒に寝よ?」
「いいのか…?」
「うん!あなたとこうして過ごすことが、私の夢だったの…」
 僕は夢を見て幸せと温もりを教えられた。ここは僕も彼女の夢を叶えてあげるべきだ…いや、叶えたい!僕は駆け足で階段を登る彼女を追いかけた。すると…
「ほら幸人っ!早く早く!」
「あぁ!今行くよ!」
 やっぱりこの世界に生きる僕の名前も幸人だったのか。子供の頃は珍しい名前だと思っていたが、いざ同じ名前の方がいると考えたら親近感が湧く。
 とんとん…
「…!」
 彼女のもとへ急ぐ僕だったが、このとき身体に異変が生じていた。
 さらさら…
 僕の身体が徐々に透け始めていた…そろそろ時間切れか?頼む…!もう少しだけ持ってくれ!彼女の夢を僕は叶えたいんだ!
「ほらっ…おいで?」
「うん!」
 僕は消えそうな身体を動かして彼女の隣に寝そべった。笑われるかな?僕は夢の中にいる愛する彼女の夢を叶えられることが、夢の中の小さな幸せだった。
「…なぁ!」
「なぁに…?」
「だ…大好きだよ…!愛してる…」
「私は倍々愛してるわよ!幸人…!」
 ほんの短い時間だったけれど、僕は知らなかった幸せに触れた。目覚めてもあなたのことは忘れたくない。もし現実で会ったら、せめて挨拶だけでもしたい。