堕天使と悪魔は偽りの姫を欲しがる


「好きでもないのにキスなんてしないで」


「好きじゃないなんてひと言も言ってないじゃん」


「好きだとも言われてない気がするのは私だけ?……ごちそうさま、部屋戻るね」




作らなくても用意されてるご飯、片付けられる食器にはもうとっくに慣れた。


私がここで暮らし始めてから6年も経ってるんだから。


そう、月と暮らし始めてから6年。私のめちゃくちゃな人生が始まってからも6年だ。




「彩雫。6時からだから、ドレス着て待っててよ?」


「…あれは着ないけどね」




ドレスを着るとき、いつもひとつだけ避けている一着があった。


クローゼットの中で、一度も来てもらえずに悲しそうに眠っているドレス。


私は、あれだけは着たくない。……少なくとも、今のままなら。




「……そっか。じゃあ夕方、迎えにくるから」


「わかった」




単調な声色で返して、振り返らずに自分の部屋へと繋がるドアを開けた。



たまに、少し考えることがある。


私が冷たく反応したあとの月は、その顔に一体どんな表情を浮かべているんだろう。