「今日さ、パーティーみたいのがあるから一緒に来てくれない?」
「もし私が嫌だって言っても、月は私を連れていくんでしょ?」
「ははっ、まあね」
じゃあ最初から聞かないでよ、なんて言葉は出ない。
私───姫梨 彩雫は、目の前でベーコンと目玉焼きが乗ったトーストを食べている月に、少しも目を向けずに言った。
「私、出かけたいんだけど」
「え〜、じゃあボディーガードに何人か───」
「いらない。ひとりで行く」
月の言葉を途中でぶった斬って、私はジャムに手を伸ばした。ちなみにブルーベリーのやつ。
出かけるだけでボディーガードって大袈裟だと思うよね、普通は。
「【Anemone】のやつらに襲われたらどうすんの、ひとりでどうにかできんの?」
「大丈夫でしょ。……それにそのときは代わりのお姫さまでも探して」
「俺は、彩雫じゃないと意味ないんだけど」
そこまで聞いて、私は息を吐きながらやっと顔を上げた。
テーブルを挟んだ目の前にいる、夜空を閉じ込めたみたいな漆黒の瞳を持つ、月と目が合う。
朝、まだセットされていない無造作ヘアだとしても、雑誌の表紙を飾ってしまえるような美貌を持つ月は、暴走族【Fleur】の総長だ。
そして、そんな月を真正面からみても表情を全く変えない私は【Fleur】の姫。つまり、月の彼女だったりする。



