堕天使と悪魔は偽りの姫を欲しがる


さっきの案内係の人に言われた4番控え室の目の前で、無口の月が立ち止まる。


もちろん私もつられて立ち止まって月を見上げる。




「やっぱもうホールの方戻ろっか」


「え、待ってる人いるんじゃないの?」


「いーのいーのあんな奴。さっさと戻ろ」




月の態度から察するに、扉の向こうにあるのは飛輪さんなんじゃないかな。


だからそれに背を向けて───逃げようとする。




「月」


「ん?」




私が【Fluel】の姫として、月の隣に立って支えなきゃいけない立場だからこそ、私がしなきゃいけないのは───


ただついていくことだけじゃないと思うから。




「逃げ続けちゃダメだよ」


「……そう、なんだよな。俺だってわかってるはずだったんだけど」


「私もいっしょ───」


「月さん」




私の言葉を遮った声に、自分の名前を呼ばれた月と私がが振り向いた瞬間。


私の目に映ったのは、黒いスーツの男が数人。




「とルナさん、ですね。こちらに来てください」


「月さんは別室ですが」




一見、丁寧な言葉遣いで清潔な服装。


ただ、一瞬で私たちを引き離したその身のこなしは裏側の人。




「あ──ルナ!」




最後に聞こえたのは、必死な月のそんな声だった。