「あんたは、誰?」
「聞いた方が先に名乗るって礼儀?」
「別に本名じゃなくていいよ。みんな、どうせ偽名を使うでしょ?」
この街で、本当の名前を教えることは重要な意味を持つ。
そう教えてくれたのは、15歳の月だ。
結局、その意味は教えてもらってないけれど。
「ふ〜ん。【Fleur】のお姫サマなのに、俺のこと知らないんだ?」
「……自分の知名度にそんなに自信があるの?」
「ふっ。おもろいな、お前」
余裕そうな上から目線で、私を見下ろしてくる視線は、さっきと変わらず真っ直ぐな光をたたえている。
私は、この人を知らない、はず。
でもこの人は、ひと目で私を【Fleur】の姫だと言い当てた。
「俺、【Anemone】のNo.1なんだけど、知らない?」
「っ…!」
「椎堂は俺のこと教えてないんだな。大切な"お姫サマ"だから」
【Anemone】No.1。
月の───【Fleur】の敵。
それはつまり、私の敵ということでもある。もちろん、2人きりで会うなんてもってのほかだ。
一瞬かたまって、すぐに恐怖がやってくる。
族の姫は、弱点でもある。強い男の集団の中の、ただ1人のか弱い存在だから。



