どんな君でも、忘れない。


家に帰ると覇気のない顔のまま夕食を食べてお風呂を済ませた。

その勢いのままベッドに突っ伏す。

「…っ」

枕に顔を埋めたまま泣きながら、私の頭は妙に冷静だった。

当たり前だ、倉くんにああ言われるのは。

何も言わずに勝手に帰ったり、挙句の果てには倉くんの話も聞かずに早く帰ろうとした。他にも、話していても上の空だったり、時計を気にしたり…ずっと挙動不審だった。

それに、私に渡ってきたってことは、倉くんだって幽霊の話は知っているはず。だから、幽霊のことを気にしているのではないかと勘のいい彼なら気付くだろう。

今、ゆっくりと考えてみれば、やなことしてるってわかるのに。

どうして私、あんなことしたんだろう。

そんな罪悪感から、とめどなく涙が溢れ続ける。

布団を頭まで被って、私は目を閉じた。


** **

目を開けた途端霧が広がっていて、私は大きく目を瞬く。

「えっ…」

しかも、この霧、いつもの霧じゃない。

いつも漂っているのは、白い霧だ。なのに、今日見えるのは灰色で、濁った色。

見間違い…?

目を見開いて目を擦るも、色は灰色のまま変わらない。

どうして……。

「実紀?」

後ろからかけられた声に振り向く。

「天使…ねえ、なんで?私、なんにも異常なんてないでしょ?どうしてこうも何回も天使に会うわけ?おかしくない?あ、もしかして私死んだとか?なら前回に言ってくれれば良かったのに」
「ちょちょちょ、待って。一度に色々言い過ぎだって。えっとね」

天使は勿体ぶった手つきでタブレットを取り出す。

あ、昔よりいいやつになっている…。

「うん、特に異常はないよ。死んでもないし。おっかしいねぇ。壊れてんのかな」

天使は一ミリも思ってなさそうに棒読みで言って、タブレットを叩く。「斜め45度からってよく言うけど、あんまり電子機器殴るのって気分良くないよねぇ。ついやっちゃうし、直らないってわかってるのにさぁ」と笑顔で言いながら。いや、そんなに言うなら殴らなくていいよ。頼んでないし。

「あっ、そうだ、天使!」

私は身を乗り出す勢いで詰め寄った。

今回は覚えてる。この間母校に行った理由!

「私が前通っていた中学校があるでしょう?あそこの裏庭で幽霊を見た人がいるんだって!」

——カァンッ

「えっびっくりした。何?」

天使が持っていたタブレットが、金属音を立てて落ちた。

床は雲でふわふわなのに、そんな金属音が鳴るの…?そんなもんなの?というかこの雲の床、空に浮いているのかな…?