どんな君でも、忘れない。


「天使、ほんとやめて…」

冷めた視線を送ると、またけらけらと笑いだす。
ほんと、ふざけすぎにも程がある。

「えへへへ。まあまあ。…で、何の用か、だったよね?」
「そうそう」
「えっとね、特にこっちも聞いてないんだよね。実紀が来るのも、何もかも」
「何も…?どういうこと?」
「つ、ま、り!」

急に声を大きくした天使が、人差し指を立ててこっちを見てきた。

「今、私は実紀がなんで昼間なのに夢を見ているかも、今どういう状態なのかも、全くわからないの!」
「え?」

…あれ。そういえば私、なんで夢を見ているんだっけ?
確か…何か用事があって、どこかに行ったような。どこに、何をしに行ったんだっけ…?

「あれっ?前はiPadかなんかで調べてなかった?ほら、私がここで倒れてる〜とか」
「あれは、正式に実紀の担当だった時だよ。もう私は実紀の担当は外されたの。正しくは、実紀“元”専属!天使ってとこなのです」

最後の部分はどうでもいい。

「あの時は、きちんと神様とかそこら辺の上の人々に言われて、しっかり手続きをして担当になったの。ただ、秋葉が死んで、実紀の感情も元通りになって、もう私の出番はなくなった。…はず、なのに」

天使は物珍しいものを見るように私を上から下までじっくり眺めてくる。

「どうして私が呼んでもないのにきちゃったのかなぁ。あ、もしかして瀕死とか?かわいそー」
「いや、瀕死ではないでしょ、たぶん」
「じゃあなんだろ。ま、いいや。実紀元専属!天使とはいえ、元専属の実紀を構ってられる程私は暇じゃないからさっ。取り敢えず、お家に帰ってさっさと寝なさい。いいね?崖の上とかで瀕死だったらめんどくさいから、ちゃーんと心優しい天使様が、起きて家の前にいるようにやってあげよう。じゃ、暇な昼夜逆転くんは、さっさとおかえり!」

虫を払うみたいな手の動き。私は虫じゃないんですけど。
あと、暇でも昼夜逆転でもないんですけど。

色々突っ込みどころはあるものの、ありがたくそうさせてもらうことにした。

どういう経緯でこうなったのかわからない以上、起きて家にいるというのはありがたい。
それに、もしまだ学校だった場合、歩く暇もなくなるわけだし、一石二鳥。

「ほんじゃ〜」

能天気な声がどんどん遠ざかっていく。
足元の雲の感覚が、どんどん硬いコンクリートに変わっていった。


** **

目を開けると、そこは天使の言った通り、家の前だった。

そして、いつも通りの壁にかかった「赤城」の表札を見て、ハッと我に返った。
…そうじゃん…私、幽霊に会いに行ったのに…。

気付いたら気絶してた。

幽霊は、私に会われないようにしたってこと…?それは、なんで…?

その日はすぐに布団に入った。