どんな君でも、忘れない。


私はそのまま、重力に耐えきれずに、裏庭に倒れ込んだ。



——その時、私は見た。

どんどん黒く塗り潰されていく視界の中で、異様に光って見える靴が、私の前の地面を踏みしめたのを。




** **


「…っ」

頭が…痛い。

内部から痛みつけられているような、強烈な痛みを感じながら、私は体を起こした。



そして、気付いた。

辺りに、霧が充満している。
前が見えないほど濃い霧だ。
見覚えのある光景に、私は目を見開いた。
…まさか。そんなはずは…。

「実紀?」

後ろから聞こえた、あの能天気な声。
後ろを振り向いても、勿論霧が立ち込めていて見えない。
だけど私は、確信を持ってこう言った。

「…天使?」

そう言った瞬間、辺りを覆い尽くしていた霧が一斉に晴れていく。
一気にクリアになった視界に、あの天使がいた。

頭の上にふわふわと浮かぶ天使の輪っかに、全身白。白いワンピースはおしゃれで、子どもっぽさがない感じで装飾のリボンがついている。前はこんなにお洒落な服じゃなかったのに…。どこでファッションセンスを磨いたのだろうか?
白い羽根もついていて、私をみて驚いているその様子は、神々しいまであった。
どこか大人っぽく、ミステリアスな雰囲気を纏っている天使。だが…。

「え、嘘マジで実紀やんおもろ、てかちょっと身長でかくなった?高校の制服?なーんかコスプレみたい〜」

私の制服を指差し、げらげら笑っている天使。
…うん、やっぱり見た目は綺麗なお姉さんなんだけど、話し始めるとこうなるな…。
黙っていればマシなのに、なんで話しちゃうのかなぁ…。

「え、綺麗なお姉さん?それはどうもっ」

自分のつやつやとした白っぽい髪をいじりながら、にっこりと笑顔を向けてくる。くっ、ムカつくっ…。

「で?今更何の用?」

できる限り早く、この人との話を終わらせたい。

「冷たいなぁ。感動の再会だってのに」

けらけらと笑っている天使を、一瞬殴りつけそうになった。

言っとくけどまだ私、あんたが私を殺そうとしたこと、忘れてないんだからね…。
心の中で低く言ったけど、聞こえてないみたいに天使はまだ笑い続けている。

「あははっ、実紀は、私との再会、嬉しくないの?」
「嬉しくない。っていうか、あんたは嬉しいの?」

嬉しいって言われたら、私結構引くんだけど…。

「嬉しいに決まってるじゃん!だって私は、実紀専属!天使だから。いぇーいっ」
「…」

そうだった。天使はこういう人だった…。
前も私専属だかなんだか言って楽しそうにしていたのを思い出す。