どんな君でも、忘れない。


声をかけられてハッとし、慌てて身体を離した。

「ありがとう…」

「なんだ…、あの人彼女かぁ…」
「彼女な距離感だったよねぇ…」
「あーあ、あんなイケメンの彼女があんな地味なやつって…羨まし〜」

ずきりと胸が一瞬痛む。こんな言葉をかけられたのは、なにも今日が初めてじゃない。

高校でも、イケメンでスタイルの良い彼のことを好いている人から妬みや嫉妬を向けられこうやってこそこそと話されることが多かった。

彼と付き合うってなった時から、もうこれは覚悟していた。

しょうがないよね…。

「元気出しなよ」
「倉くん…」
「実紀には俺がいるだろ」

そう、くん…。

倉くんの優しさが、じわりと心に沁みる。

好きだなぁ…っ。

「…うんっ。そうだね」
「あんなやつらに何言われたって、気にすんなよ」

ぽすっと肩を優しく叩かれた。
その優しさに、思わず微笑んだ。

「わーっ!」

ライトアップされて、赤や青、緑に黄色などの色んな色の光がきらきらと輝いている水族館の外装。

「水族館だっ…!」
「めっちゃ目きらきらしてる」

ちょっと笑われた。

きらきらとした光を放つ水族館の中へと足を踏み入れる。

眩しい、水族館の中の光に、思わず目を細めた。


** **

「今日はありがとう」
「いや、別に。俺も楽しかったし」
「えへへ、私も」

倉くんも同じように思ってくれていたなんて。その事実に、つい口元が緩んだ。

「送ってくれてありがとう。またね!」
「あっ、実紀」
「うん?」

私の家の前で、倉くんがニッと無邪気な笑みを浮かべた。

「またな!」
「…っ」

彼は回れ右をしてきた道を戻っていく。

でも私は、その場から動けなかった。

「…またね」

小さく呟いた言葉は、彼の耳にも、誰の耳にも届かずに、消えた。

…っ?

不意に、背後に気配を感じて振り向いた。

誰もいない空間。

それを眺めながら、私は胸騒ぎを感じた。

今日をきっかけに、何かが起こる——そんな気がした。