焼肉屋の前を通った時、辺りにふわりと焼肉の匂いが漂った。
日曜の夜の丁度ご飯どきのため、その焼肉屋は並ぶ人々で溢れ返っており、大盛況だった。
その焼肉屋を横目で眺めながら通り過ぎて、突き当たりのT字路を右に曲がる。
だんだんと日が長くなってきた頃なので、公園の中はだいぶ明るい。
大きな噴水の近くにあるベンチに座り、ゆっくりと空を仰ぐ。
ネイビーに染まった雲が辺りを覆い尽くしているものの、「夜道」というには随分と明るい。
暫く空を眺めてぼーっとしていたら、じゃり、と砂を踏み締める音が聞こえた。その音に反応に振り向く。
「倉くん」
「実紀」
倉くんは私を視界に入れて、ほっとしたように表情を緩めた。中2のあの頃には見られなかっ顔だ。
そして今、私も同じ表情をしているだろう。
彼は、この数年で急激に身長が伸びて、そして大人っぽくなった。
ちゃらちゃらしたあの問題児はどこに行ったのか。大人っぽい今の彼も好きだけれど、たまにあの頃の倉くんのことも恋しくなる。どちらも倉くんなことに変わりはないから、私はそんな彼のこともまとめて大好きだ。
私たちは、高校生になった。
もう年をとることのない“彼女”を置いて、時間は待ったも聞かずにただただ過ぎていく。
「よし、じゃあ行こうか」
「うんっ」
ベンチからたちあがって、当たり前のように手を繋ぐ。
その瞬間、私があの頃不可思議な夢を見るたびに感じていた変な感覚が底の底から溢れそうになる。
…あ。
「実紀?」
倉くんがこちらを振り向いた時には、もうあの感覚は消えていた。
「ううん、大丈夫」
変だな…もう二度とあの夢はみないのに。
気のせいか、と吐息だけで呟いて足を踏み出した。



