「こっち」
手首を軽く引かれて、はっとする。
振り返ると、同い年くらいの女の子が立っていた。
ふわっとした柔らかい雰囲気。
でも、その瞳だけがやけに落ち着いている。
「総長から預かってる子でしょ?」
「え、あ……はい、」
「やっぱり。つむぎちゃん、だよね」
どうして名前を――と思った瞬間、
「さっきの、全部聞こえてたから」
くすっと笑われて、少しだけ安心する。
「私は美月。医療チームの一員」
「医療……」
「そ。これから一緒に動くことになると思う」
にこっと笑うその顔は、普通の高校生みたいで。
でも。
「……ここって、なんなんですか」
思わず、本音がこぼれる。
美月は少しだけ視線を落として、
「簡単に言うと、“普通じゃない人たちの集まり”かな」
そう言って、またこちらを見る。
「怖い?」
「……ちょっと」
正直に頷くと、
「だよね」
あっさりと返されて、逆に安心した。
「でも大丈夫」
ふわっと、優しく笑う。
「ルールさえ守れば、ちゃんと守られる場所だから」
「ルール……?」
「うん。大事なこと、いくつかあるよ」
指を一本立てて、美月は言った。
「まず一つ目。総長の言うことは絶対」
「絶対……」
「うん。逆らう人、いないし」
さらっと言われた言葉の重さに、息を呑む。
「二つ目。勝手な行動は禁止」
「……はい」
「特に外に出るときは絶対誰かと一緒。ここ、敵も多いから」
――敵。
その言葉に、背筋が冷える。
「三つ目」
少しだけ、声のトーンが変わる。
「自分の役割はちゃんと果たすこと」
「役割……」
「つむぎちゃんは医療でしょ?」
こくりと頷くと、
「なら、“助ける側”としてちゃんとしてないとダメ」
その言い方は優しいのに、芯が強くて。
思わず背筋が伸びた。
「最後に――」
美月は少しだけ近づいて、
小さな声で言う。
「自分の命、大事にして」
「……え」
「ここ、“軽く扱われること”もあるから」
さらっと言ったその一言に、息が詰まる。
でもすぐに、にこっと笑って。
「でもね」
「はい」
「総長がつむぎちゃんのこと、“俺のもんだ”って言ったでしょ?」
ドキッと、心臓が跳ねる。
「……はい」
「それ、すごいことだから」
少しだけ、いたずらっぽく笑う。
「たぶん、もう誰も手出しできないよ」
「え……」
「守られてるってこと」
そう言われて、
さっきの言葉が頭の中で繰り返される。
――俺のもんだ。
「……そっか」
ぽつりと呟いた声は、少しだけ震えていた。
怖いはずなのに。
どうしてか――
安心してしまっている自分がいる。
「ま、細かいことはこれから教えるね」
美月がくるっと背を向ける。
「とりあえず今日は、部屋案内するから」
「ありがとうございます」
そう言って、私はその背中を追いかけた。
