天音の指が、キーボードの上で止まる。
「……そういうとこ、ほんとムカつく」
「それ褒め言葉?」
「違う」
そう言いながらも、彼の視線はほんのわずかに逸れている。
茉白は気づかないふりをした。
(……まただ)
(顔がいい)
(今の“ムカつく”の言い方、ずるい)
心の中でだけ、全部が崩れる。
一方の天音も同じだった。
(あーもう)
(正論で殴る顔、ほんと反則なんだけど)
(好きになるなって方が無理だろこれ)
沈黙のあと、天音が小さく言う。
「……じゃあ中間取る。安定性設計もう一段階入れる。それでいい?」
茉白は少しだけ目を見開いてから、すぐに視線を外す。
「……それなら、許容範囲」
「許容範囲って何」
「ギリ合格」
「上から目線やめてくれる?」
「事実でしょ」
また始まる、と思われたその瞬間。
ドアの外で、後輩が小声でささやく。
「いつも喧嘩してるけど、美男美女よね」
「はやく付き合えばいいのに」
「(好き同士なのバレバレなんだけどなぁ)」
その“バレバレ”の当事者たちは、今日も気づかない。



