花あかりに もう一度だけ君と

翌日の朝。
僕は曇り空の下、再び桜の木を訪れて《それ》を探した。
夕べ女の子は涙ぐみながら懸命に探していたが、暗闇の中では見つけることはできず、降り出した雨に諦めたように帰って行った。

「あった、これか?」

雨に濡れ、落ち葉に半分隠れていたのは一枚の写真。
そっと拾い上げると、女の子が車椅子の男の子に顔を寄せて笑っている写真だった。
二人の後ろには満開の桜。

(ここは、病院か?)

小説家の癖で、あれこれと想像を巡らせ始める。
十八歳くらいだろうか、二人とも子どもと大人の狭間にいるような純粋さに溢れていた。
車椅子に座っている男の子は、入院用の病衣に上着を羽織り、頭にはニット帽をかぶっている。
やせ細っているが、なんとなく面影が自分に似ている、と僕は思った。

大切に写真を持ち帰ると、丁寧に汚れを拭く。
さて、どうやってこれを女の子に返そうか。
思案しながら、昨日のあの子の言葉を思い出した。

この男の子の名前は、さとる。
そして恐らくはもう、彼女のもとを旅立ってしまったのだろう。

「神様……お願い。もう一度だけ、悟に会わせて……」

切ない願いが僕の胸に突き刺さる。
じっと写真の中の二人を見つめてから、デスクの引き出しを開けた。
一筆箋と筆ペンを手に、ゆっくりと文字をしたためる。

【花あかりに もう一度だけ君と会いたい】