『俺様王子が不器用についた最初で最後の優しい嘘。』

 それは、今から十数年前。まだ僕たちが、自分の背丈より高いひまわりに囲まれて遊んでいた頃の話。


「……ゆきくん、待ってよー!」


 後ろからトテトテと付いてくる、泣き虫な女の子。それが空音だった。


 当時の僕は、今みたいに傲慢じゃなくて、ただ生意気なだけのガキだった。でも、空音が転んで膝を擦りむけば、誰よりも先に駆け寄って、「泣くなよ、ブスになるぞ」なんて、今と変わらない言葉で強がっていた。


「ねぇ、ゆきくん。……ずっと一緒に遊んでくれる?」

 
 ひまわり畑の真ん中で、空音が不安そうに僕のシャツの裾を掴んだ。


 僕は照れ隠しにそっぽを向いて、その辺に生えていたシロツメクサをぶち切ると、不器用な手つきで小さな輪っかを作った。


「……ほら。これ、お前にやるよ」


「わぁ、指輪……?」


「ああ。……これをつけてる間は、お前は俺の分担だ。他の奴と遊んだら承知しねーからな」


 それが、僕が人生で初めてついた「俺様」な嘘と、本物の独占欲だった。


 空音は花の指輪を薬指にはめて、ひまわりみたいな満開の笑顔で笑った。


「うん! 私、ゆきくんのお嫁さんになる!」


 ……バカ。お嫁さんなんて、こっちはそんなつもりじゃ……なんて言いながら、僕の顔は真っ赤だった。

 
 あの頃の僕は知らなかった。


 いつか僕の中から、このひまわりの匂いも、空音の笑い声も、全部消えてしまう日が来るなんて。

 
 でも、あの時空音が嬉しそうに指輪を見つめていたあの光景だけは、どんなに病気が僕を壊しても、心の底に「消えないシミ」みたいに残っていたんだ。


「空音。……お前、あの時の約束、覚えてるか?」

 
 大学生になった今、僕の隣で眠る空音の指先には、草の花じゃなくて、銀色の本物の指輪が光っている。

 
 記憶はなくなっても、俺の魂は、あの日からずっとお前を離さないって決めてたんだよ。

俺はお前のことを、ずっと前から知ってたんだよ。

愛してる。空音。