『俺様王子が不器用についた最初で最後の優しい嘘。』

 新幹線が東京駅のホームに滑り込む。


 三日間の夢のような時間が終わり、私たちは現実の景色へと引き戻されていた。
 

「……空音。手、出せ」


 改札を出る直前、雪弥(ゆきや)は人混みを避けるようにして私を柱の陰に引き寄せた。


 彼は、京都の最後のお土産屋でこっそり買った、あの小さな銀色のリングを私の左手の薬指に嵌めてくれた。


「これ……ここでつけるの?」


「当たり前だ。お前は俺の所有物だって、東京の奴らにも見せつけとかねーとな」


 雪弥は自慢げに自分の左手にもお揃いの指輪を光らせ、私の肩をがっしりと抱き寄せた。


「いいか、これはお土産じゃねー。……俺たちが京都で誓った、解けない契約だ。絶対に外すなよ」


 その時の彼は、いつもの自信に満ち溢れた「俺様」そのものだった。


 けれど。


 一時間後、自宅へ向かう電車のホーム。


 雪弥はふと、自分の左手の薬指で輝くリングをじっと見つめた。

 
「……空音。……これ、なんだっけ」


「え……? 指輪だよ。さっき、雪弥がつけてくれた……」


 私の言葉に、雪弥はハッとしたように顔を上げた。その瞳には、さっきまでの傲慢さは微塵もなく、ただ真っ白な恐怖だけが広がっていた。


「……違う。それはわかってる。……でも、……これ、どこで買った? なんで俺たちは、指輪なんてしてるんだ……?」


「雪弥……っ、京都だよ! あのお土産屋さんで、二人で選んで……」


「京都……? ……ああ、そうか。修学旅行に行ってたんだよな。……悪い。ちょっと、疲れてるだけだ」


 雪弥は無理やり唇を吊り上げ、いつもの不敵な笑みを作ってみせた。


 けれど、指輪をなぞる彼の指先は、小刻みに震えている。


 新幹線に乗っていた、たった数十分の間に。


 彼の中から「指輪を嵌めた時の熱い気持ち」が、砂時計の砂のようにサラサラとこぼれ落ちてしまったのだ。


「雪弥。……私が、何度でも教えるよ。これは、雪弥が私を一生離さないって決めた証拠だって」


「……フン。当たり前だろ。……俺様が決めたことなら、忘れてようが関係ねーよ。……お前は黙って、俺に繋がれてりゃいいんだ」


 強がりな言葉。でも、彼はそのあと、電車に乗っている間ずっと、自分の指輪を私の指輪にぶつけるようにして、金属の冷たい感触を確かめていた。


 まるで、その感触だけが、今の彼を「星野空音の恋人」に繋ぎ止める唯一の鎖であるかのように。


「……空音。……この指輪、絶対外すなよ。……俺がこれを見てお前を思い出せなくなったら……その時は、俺を殴ってでも思い出させろ。……命令だ」


 東京の夜。


 お揃いのお土産。お揃いの誓い。


 その輝きが眩しければ眩しいほど、迫りくる暗闇の深さが、私の胸を締め付けた。