修学旅行もいよいよ終盤。
京都駅のお土産売り場は、色とりどりの紙袋を抱えた中学生たちで溢れかえっていた。
私も家族や部活の友達へのお土産を選ぼうと棚を眺めていたけれど、隣に立つ雪弥(ゆきや)の機嫌は、あからさまに斜めだった。
「……おい、空音。さっきから何真剣に選んでんだよ。そいつ、男か?」
「えっ、違うよ! これは部活の後輩の女の子に……」
「女子だろうが関係ねーよ。お前が俺以外の誰かのことを考えてる時間が気に入らねーんだ。……お土産なんて全部これにしとけ。俺が選んだ『八ツ橋』
だ、文句ねーだろ」
雪弥は自分のカゴに山積みにされた箱を指差して、不遜に言い放った。相変わらずの無茶苦茶な理論。でも、そうやって私を振り回す時の彼は、いつもの
「自信満々な雪弥」そのもので、私は少しだけ安心する。
「自分の分は買ったの? 雪弥」
「……俺は別に、そんなもんいらねーよ。……あ、待て。これだ」
雪弥が不意に足を止めたのは、伏見稲荷の「狐」をモチーフにした、小さな根付(ストラップ)が並ぶコーナーだった。
彼は真剣な目付きで二つの狐を選び出すと、一つを私の手のひらに乱暴に押し付けた。
「……これ、お揃いな。俺様とお前の、契約の証だ」
「え……いいの? ありがとう」
「勘違いすんなよ。お前がどっかで迷子になった時、俺が見つけやすくするための目印だ。……いいか、絶対に外すなよ。俺の目の届かないところでも、お
前は俺の所有物なんだからな」
照れ隠しの傲慢なセリフ。けれど、彼が選んでくれたのは、私のイメージに合わせたという、少し垂れ目の可愛らしい狐だった。
雪弥は自分用の、鋭い目付きの狐を自分のスマホに取り付けると、満足げに鼻を鳴らした。
レジへ向かう途中、雪弥は私の耳元で、周りに聞こえないような低い声で囁いた。
「……空音。この狐、俺が忘れても、お前が持ってるのを見れば……お前が俺の特別な奴だって、身体が思い出すように呪い(まじない)をかけといた」
「……呪い?」
「ああ。……『俺を一生、空音の隣に繋ぎ止めろ』っていう、最強の呪いだ。……光栄に思えよな」
冗談めかして笑う彼の瞳は、でも、どこまでも本気だった。
お土産選びという何気ない日常の風景。その中でさえ、彼は必死に、未来の自分が「私」を失わないための手がかりを残そうとしている。
新幹線のホーム。
私たちは、お揃いの狐を揺らしながら、東京へと向かう列車に乗り込んだ。
「……雪弥。東京に帰っても、ずっとこれ、つけてるからね」
「……当たり前だ。外したら、お仕置きだからな」
雪弥は私の肩に頭を預け、そのまま心地良さそうに目を閉じた。
けれど、新幹線が加速し、京都の景色が遠ざかっていくたびに――彼の指先が、私の指を確かめるように、何度も何度も強く握り直されていた。
京都駅のお土産売り場は、色とりどりの紙袋を抱えた中学生たちで溢れかえっていた。
私も家族や部活の友達へのお土産を選ぼうと棚を眺めていたけれど、隣に立つ雪弥(ゆきや)の機嫌は、あからさまに斜めだった。
「……おい、空音。さっきから何真剣に選んでんだよ。そいつ、男か?」
「えっ、違うよ! これは部活の後輩の女の子に……」
「女子だろうが関係ねーよ。お前が俺以外の誰かのことを考えてる時間が気に入らねーんだ。……お土産なんて全部これにしとけ。俺が選んだ『八ツ橋』
だ、文句ねーだろ」
雪弥は自分のカゴに山積みにされた箱を指差して、不遜に言い放った。相変わらずの無茶苦茶な理論。でも、そうやって私を振り回す時の彼は、いつもの
「自信満々な雪弥」そのもので、私は少しだけ安心する。
「自分の分は買ったの? 雪弥」
「……俺は別に、そんなもんいらねーよ。……あ、待て。これだ」
雪弥が不意に足を止めたのは、伏見稲荷の「狐」をモチーフにした、小さな根付(ストラップ)が並ぶコーナーだった。
彼は真剣な目付きで二つの狐を選び出すと、一つを私の手のひらに乱暴に押し付けた。
「……これ、お揃いな。俺様とお前の、契約の証だ」
「え……いいの? ありがとう」
「勘違いすんなよ。お前がどっかで迷子になった時、俺が見つけやすくするための目印だ。……いいか、絶対に外すなよ。俺の目の届かないところでも、お
前は俺の所有物なんだからな」
照れ隠しの傲慢なセリフ。けれど、彼が選んでくれたのは、私のイメージに合わせたという、少し垂れ目の可愛らしい狐だった。
雪弥は自分用の、鋭い目付きの狐を自分のスマホに取り付けると、満足げに鼻を鳴らした。
レジへ向かう途中、雪弥は私の耳元で、周りに聞こえないような低い声で囁いた。
「……空音。この狐、俺が忘れても、お前が持ってるのを見れば……お前が俺の特別な奴だって、身体が思い出すように呪い(まじない)をかけといた」
「……呪い?」
「ああ。……『俺を一生、空音の隣に繋ぎ止めろ』っていう、最強の呪いだ。……光栄に思えよな」
冗談めかして笑う彼の瞳は、でも、どこまでも本気だった。
お土産選びという何気ない日常の風景。その中でさえ、彼は必死に、未来の自分が「私」を失わないための手がかりを残そうとしている。
新幹線のホーム。
私たちは、お揃いの狐を揺らしながら、東京へと向かう列車に乗り込んだ。
「……雪弥。東京に帰っても、ずっとこれ、つけてるからね」
「……当たり前だ。外したら、お仕置きだからな」
雪弥は私の肩に頭を預け、そのまま心地良さそうに目を閉じた。
けれど、新幹線が加速し、京都の景色が遠ざかっていくたびに――彼の指先が、私の指を確かめるように、何度も何度も強く握り直されていた。


