中学三年生、秋。修学旅行の行き先は、古都・京都。
新幹線のホームは、浮き足立つ生徒たちの熱気で溢れていた。けれど、私は隣に立つ雪弥の、ポケットの中で固く握りしめられた拳を見ていた。
「おい、空音。新幹線では俺の隣に座れ。班が違う? 知るかよ。俺が隣にいろっつったら、そこが俺たちの席だ」
相変わらずの俺様発言。けれど、その瞳はいつになく鋭い。
知らない街。いつもと違うスケジュール。記憶に障害を抱える雪弥にとって、この三日間は「自分が誰か」を見失いかねない、命がけのギャンブルでもあ
った。
「……雪弥、大丈夫? 栞(しおり)、予備のも持ってるからね」
「心配すんな。俺を誰だと思ってんだ。……それよりお前、向こうで他校の男にナンパされたら即、俺に報告しろよ。修学旅行マジックとか浮かれてる奴
は、俺が全員沈めてやるからな」
京都に到着し、色鮮やかな紅葉に包まれた清水寺。
人混みの中で、雪弥は「はぐれるだろ」と不器用な理由をつけて、私の制服の袖をずっと掴んでいた。
「……雪弥、見て! 綺麗だね」
「……ああ。そうだな」
雪弥は景色を見るふりをして、こっそりと小さなカードを取り出した。そこには、今日の宿の名前、班のメンバー、そして――『空音の好きな食べ物:八ツ橋(生)』という走り書き。
彼は一分一秒、目の前の景色が記憶からこぼれ落ちないように、必死に抗っていた。
新幹線のホームは、浮き足立つ生徒たちの熱気で溢れていた。けれど、私は隣に立つ雪弥の、ポケットの中で固く握りしめられた拳を見ていた。
「おい、空音。新幹線では俺の隣に座れ。班が違う? 知るかよ。俺が隣にいろっつったら、そこが俺たちの席だ」
相変わらずの俺様発言。けれど、その瞳はいつになく鋭い。
知らない街。いつもと違うスケジュール。記憶に障害を抱える雪弥にとって、この三日間は「自分が誰か」を見失いかねない、命がけのギャンブルでもあ
った。
「……雪弥、大丈夫? 栞(しおり)、予備のも持ってるからね」
「心配すんな。俺を誰だと思ってんだ。……それよりお前、向こうで他校の男にナンパされたら即、俺に報告しろよ。修学旅行マジックとか浮かれてる奴
は、俺が全員沈めてやるからな」
京都に到着し、色鮮やかな紅葉に包まれた清水寺。
人混みの中で、雪弥は「はぐれるだろ」と不器用な理由をつけて、私の制服の袖をずっと掴んでいた。
「……雪弥、見て! 綺麗だね」
「……ああ。そうだな」
雪弥は景色を見るふりをして、こっそりと小さなカードを取り出した。そこには、今日の宿の名前、班のメンバー、そして――『空音の好きな食べ物:八ツ橋(生)』という走り書き。
彼は一分一秒、目の前の景色が記憶からこぼれ落ちないように、必死に抗っていた。


