「……おい。全部吐けって言ってんだろ」
放課後の誰もいない教室。雪弥は私の机に両手をつき、逃げ場を塞ぐようにして私を閉じ込めた。
昼間の如月拓海の登場以来、彼の機嫌は最悪だった。
「雪弥、落ち着いて。如月くんとは、ただの幼馴染っていうか……」
「幼馴染? そんなの、今すぐその記憶ごと消去しろ。……俺の知らないお前がいるのが、気に入らねーんだよ」
雪弥の瞳は、焦燥感と独占欲でギラついていた。
今の彼にとって、過去の記憶は唯一の「弱点」だ。自分が覚えていない時間に、他の男が空音の隣にいたという事実が、彼のプライドを激しく逆なでして
いる。
「いいか、空音。これから一時間、お前の人生のすべてを俺に教えろ。幼稚園で誰と遊んだか、初恋はいつか、……あいつと何回喋ったか。一分一秒残さずだ」
「ええっ、そんなの無理だよ……!」
「無理じゃねーよ。命令だ」
雪弥は私の椅子に無理やり腰掛け、私を自分の膝の上に抱き上げた。
「ひゃっ、ちょっと……!」
「動くな。……こうしてねーと、お前がどこかに行きそうで落ち着かねーんだよ」
そう言って、彼は私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
強引な態度の裏側にある、震えるような寂しさ。
彼は、私が自分の知らない「過去」に逃げてしまうのが怖いんだ。記憶をなくした今の自分よりも、昔の自分や、昔の知り合いの方が空音にとって価値が
あるんじゃないかと、怯えている。
「雪弥……。過去なんて関係ないよ。私が好きなのは、今、ここにいる雪弥なんだから」
「……黙れ。……口で言うだけならタダだ。……証明してみせろよ」
雪弥は私の顔を両手で挟み込み、至近距離で唇を近づけた。
「……お前の『今』も『未来』も、全部俺が上書きしてやる。……あいつの名前も、過去の思い出も、全部俺の色に染めて、一ミリも残さねーからな」
それは、溺愛という名の「支配」だった。
彼は不器用な手つきで、私の手首に自分の腕時計を巻きつけた。
「これ、俺の身代わりだ。……これをつけてる間は、俺のことだけ考えてろ。他の男を思い出したら、承知しねーぞ」
雪弥の心音。時計の秒針の音。
二つの音が重なり合って、静かな教室に響く。
記憶が消えていくほどに、彼の愛は重く、深く、私を縛り付けていく。
でも、その不自由さが、今の私には愛おしくてたまらなかった。
「……雪弥。……大好きだよ」
「……フン、当たり前だろ。……俺様がお前を愛してやってんだから、一生感謝してろ」
少しだけ赤くなった耳を隠すように、雪弥は私を強く抱きしめた。
たとえ彼の中から過去が消えても。
こうして肌を重ねるたびに、新しい記憶が、二人だけの歴史として刻まれていく。
でも。
窓の外から、去り際の拓海が投げかけた言葉が、私の脳裏にこびりついて離れなかった。
『神崎はもう、お前を守りきれない。……いずれ、お前の顔さえ忘れるんだからな』
放課後の誰もいない教室。雪弥は私の机に両手をつき、逃げ場を塞ぐようにして私を閉じ込めた。
昼間の如月拓海の登場以来、彼の機嫌は最悪だった。
「雪弥、落ち着いて。如月くんとは、ただの幼馴染っていうか……」
「幼馴染? そんなの、今すぐその記憶ごと消去しろ。……俺の知らないお前がいるのが、気に入らねーんだよ」
雪弥の瞳は、焦燥感と独占欲でギラついていた。
今の彼にとって、過去の記憶は唯一の「弱点」だ。自分が覚えていない時間に、他の男が空音の隣にいたという事実が、彼のプライドを激しく逆なでして
いる。
「いいか、空音。これから一時間、お前の人生のすべてを俺に教えろ。幼稚園で誰と遊んだか、初恋はいつか、……あいつと何回喋ったか。一分一秒残さずだ」
「ええっ、そんなの無理だよ……!」
「無理じゃねーよ。命令だ」
雪弥は私の椅子に無理やり腰掛け、私を自分の膝の上に抱き上げた。
「ひゃっ、ちょっと……!」
「動くな。……こうしてねーと、お前がどこかに行きそうで落ち着かねーんだよ」
そう言って、彼は私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
強引な態度の裏側にある、震えるような寂しさ。
彼は、私が自分の知らない「過去」に逃げてしまうのが怖いんだ。記憶をなくした今の自分よりも、昔の自分や、昔の知り合いの方が空音にとって価値が
あるんじゃないかと、怯えている。
「雪弥……。過去なんて関係ないよ。私が好きなのは、今、ここにいる雪弥なんだから」
「……黙れ。……口で言うだけならタダだ。……証明してみせろよ」
雪弥は私の顔を両手で挟み込み、至近距離で唇を近づけた。
「……お前の『今』も『未来』も、全部俺が上書きしてやる。……あいつの名前も、過去の思い出も、全部俺の色に染めて、一ミリも残さねーからな」
それは、溺愛という名の「支配」だった。
彼は不器用な手つきで、私の手首に自分の腕時計を巻きつけた。
「これ、俺の身代わりだ。……これをつけてる間は、俺のことだけ考えてろ。他の男を思い出したら、承知しねーぞ」
雪弥の心音。時計の秒針の音。
二つの音が重なり合って、静かな教室に響く。
記憶が消えていくほどに、彼の愛は重く、深く、私を縛り付けていく。
でも、その不自由さが、今の私には愛おしくてたまらなかった。
「……雪弥。……大好きだよ」
「……フン、当たり前だろ。……俺様がお前を愛してやってんだから、一生感謝してろ」
少しだけ赤くなった耳を隠すように、雪弥は私を強く抱きしめた。
たとえ彼の中から過去が消えても。
こうして肌を重ねるたびに、新しい記憶が、二人だけの歴史として刻まれていく。
でも。
窓の外から、去り際の拓海が投げかけた言葉が、私の脳裏にこびりついて離れなかった。
『神崎はもう、お前を守りきれない。……いずれ、お前の顔さえ忘れるんだからな』


