学校の正門前。
下校しようとする私たちの前に、見慣れない制服を着た集団が立ちはだかった。
その中心にいるのは、鋭い顔立ちをした、いかにも育ちの良さそうな男子。他校の有名私立中学に通う、如月 拓海(きさらぎ たくみ)。
「久しぶりだな、神崎。……いや、今は『偽りの王子』様かな?」
拓海が冷ややかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。彼は以前から空音に執拗にアプローチし、そのたびに雪弥に叩き潰されてきた宿敵だった。
「……誰だ、お前」
雪弥の声が低く響く。けれど、その瞳には焦りが滲んでいた。
昨日の「俺様指導」で彼の名前までは予習できていなかった。雪弥の記憶の欠落を、拓海は敏感に感じ取ったらしい。
「ハハッ! 本当に忘れてるのか? 傑作だな。あんなに俺をボコボコにしたくせに」
拓海は雪弥を無視して、私の手首を強引に掴んだ。
「空音、こんな壊れかけの奴と一緒にいても意味ないだろ。俺ならお前の名前も、愛した記憶も、一生忘れたりしない。……神崎の下僕を辞めて、俺のとこ
ろに来いよ」
「……離してっ!」
抵抗する私の腕を、拓海がさらに強く引き寄せようとした、その時。
ドカッ、という鈍い音とともに、拓海の手が弾き飛ばされた。
雪弥が、私の前に割って入っていた。その背中は、病室で見た時よりもずっと大きく、圧倒的な威圧感を放っている。
「……おい。その汚ねー手で、俺の女に触んじゃねーよ」
「……神崎、お前……」
「名前? 過去の因縁? そんなもん、覚えてねーよ。……でもな、身体が覚えてんだわ。お前みたいな三下は、俺の足元にも及ばねーってな」
雪弥は拓海の胸ぐらを掴み、至近距離で冷酷に言い放った。
記憶はなくても、空音を奪われそうになった瞬間に沸き上がった「独占欲」が、彼の本能を呼び覚ましていた。
「空音が俺を選んでんだ。……お前が入り込む隙間なんて、一ミリもねーんだよ。消えろ。……二度と俺たちの前にツラ見せんな」
凄まじい眼光。拓海はその迫力に気圧され、舌打ちをして仲間と共に去っていった。
静まり返った校門前。
雪弥はふぅと大きく息を吐くと、私の肩を乱暴に抱き寄せた。
「……ったく。お前、いつの間にあんな虫を飼ってたんだよ。……俺の許可なく男を寄せるな。これ、絶対な」
強気なセリフ。でも、私の肩に置かれた彼の手は、さっきの興奮のせいか、それとも「思い出せなかった」ことへの恐怖からか、小さく震えていた。
「……雪弥。助けてくれて、ありがとう」
「……勘違いすんな。俺の持ち物に手を出されたのが気に入らなかっただけだ。……行くぞ。特訓の続きだ。あんな奴のこと、一秒も考えさせねーくらい、
俺でお前をいっぱいにしてやるからな」
記憶がどれだけ消えても、彼の「溺愛」だけは、形を変えて何度でも私を捕らえる。
でも、雪弥。
さっきの如月くん、実は小学校の時からの知り合いなんだよ……?
その事実を伝えたら、また嫉妬の嵐が吹き荒れそうで、私はそっと胸の中にしまい込んだ。
下校しようとする私たちの前に、見慣れない制服を着た集団が立ちはだかった。
その中心にいるのは、鋭い顔立ちをした、いかにも育ちの良さそうな男子。他校の有名私立中学に通う、如月 拓海(きさらぎ たくみ)。
「久しぶりだな、神崎。……いや、今は『偽りの王子』様かな?」
拓海が冷ややかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。彼は以前から空音に執拗にアプローチし、そのたびに雪弥に叩き潰されてきた宿敵だった。
「……誰だ、お前」
雪弥の声が低く響く。けれど、その瞳には焦りが滲んでいた。
昨日の「俺様指導」で彼の名前までは予習できていなかった。雪弥の記憶の欠落を、拓海は敏感に感じ取ったらしい。
「ハハッ! 本当に忘れてるのか? 傑作だな。あんなに俺をボコボコにしたくせに」
拓海は雪弥を無視して、私の手首を強引に掴んだ。
「空音、こんな壊れかけの奴と一緒にいても意味ないだろ。俺ならお前の名前も、愛した記憶も、一生忘れたりしない。……神崎の下僕を辞めて、俺のとこ
ろに来いよ」
「……離してっ!」
抵抗する私の腕を、拓海がさらに強く引き寄せようとした、その時。
ドカッ、という鈍い音とともに、拓海の手が弾き飛ばされた。
雪弥が、私の前に割って入っていた。その背中は、病室で見た時よりもずっと大きく、圧倒的な威圧感を放っている。
「……おい。その汚ねー手で、俺の女に触んじゃねーよ」
「……神崎、お前……」
「名前? 過去の因縁? そんなもん、覚えてねーよ。……でもな、身体が覚えてんだわ。お前みたいな三下は、俺の足元にも及ばねーってな」
雪弥は拓海の胸ぐらを掴み、至近距離で冷酷に言い放った。
記憶はなくても、空音を奪われそうになった瞬間に沸き上がった「独占欲」が、彼の本能を呼び覚ましていた。
「空音が俺を選んでんだ。……お前が入り込む隙間なんて、一ミリもねーんだよ。消えろ。……二度と俺たちの前にツラ見せんな」
凄まじい眼光。拓海はその迫力に気圧され、舌打ちをして仲間と共に去っていった。
静まり返った校門前。
雪弥はふぅと大きく息を吐くと、私の肩を乱暴に抱き寄せた。
「……ったく。お前、いつの間にあんな虫を飼ってたんだよ。……俺の許可なく男を寄せるな。これ、絶対な」
強気なセリフ。でも、私の肩に置かれた彼の手は、さっきの興奮のせいか、それとも「思い出せなかった」ことへの恐怖からか、小さく震えていた。
「……雪弥。助けてくれて、ありがとう」
「……勘違いすんな。俺の持ち物に手を出されたのが気に入らなかっただけだ。……行くぞ。特訓の続きだ。あんな奴のこと、一秒も考えさせねーくらい、
俺でお前をいっぱいにしてやるからな」
記憶がどれだけ消えても、彼の「溺愛」だけは、形を変えて何度でも私を捕らえる。
でも、雪弥。
さっきの如月くん、実は小学校の時からの知り合いなんだよ……?
その事実を伝えたら、また嫉妬の嵐が吹き荒れそうで、私はそっと胸の中にしまい込んだ。


