笑う君には福来たる

 実のところ、鬼丸は別に福子が嫌いなわけではない。
 彼にとっては、からかいがいのある幼馴染。そんなところである。

 文化祭が終わり、後片付けをしていた時、クラスメイトが言っていた。

「小田倉さん、桐谷くんと一緒に文化祭回ってたの見たよ」

 ――福子と悠真が付き合い始めたのを知った時、鬼丸はなんとも言えない気分になった。
 別に嫌いではないけど、恋愛感情があったわけでもない。
 幼馴染が、クラスメイトと交際してるだけ。
 それだけのことなのに、妙にもやもやした。

 自分の感情がわからず、首を傾げながら、文化祭で出たゴミの袋を持って廊下を歩く。
 途中、視界に入ったのは、やはり福子であった。

「おーい、お多福……」

 声をかけようとして、止まる。
 福子は、悠真と談笑していた。
 それが、やけに楽しそうで、幸せそうで。

 ――あれ。なんかもう、言えねぇな。

 そう悟ってしまった。

 鬼丸はこそこそと隠れるように、うつむいて2人のそばを通り過ぎる。
 なぜか目が合わせづらかった。
 気づかれなかったようで、ほっと息をつく。

 ――いや、なんで俺、こんなことしてるんだ?

 別に隠れる必要もなかったのに、なんだか福子の前に胸を張って出られない。
 理由はわからなかったが、これだけはわかる。
 ――もう福子は、鬼丸のからかえる相手ではない。

 ……あれ。
 もしかして俺、今まで嫌なやつみたいになってなかった?

 今更気付き、少し恥ずかしくなる。
 背後からは、福子の笑い声が聞こえていた。