さくらいろのあお

 私は部室の玄関を出ると、文化部室棟の廊下を一歩一歩踏みしめて歩いた。足の裏から伝わってくる感触を感じ取る。
 それから教室棟を通り、昇降口を出て、正門の広場の自動販売機に着く。
 自動販売機でカフェオレを買った松岡くんは、笑い話に明け暮れる。話が意外と面白かった。
 深夜見たお笑い番組の話――私は思わず笑った。松岡くんも将棋が強くて、真面目でストイックな性分でもあるのに――琴音さんのことになるとチャラける。
「それで本題に入るけれど、相談って何?」
 松岡くんは「琴姫に告白した」と言う。
「もうとっくに告白しているようなものだったでしょ」
「本気で告白した」
 松岡くんは力説する。――春休みに一緒に都会に行って、全力でデートして「正しく告白した」と言う。
――それで断られたの?
「誤解を招かないように、この手の相談相手は村家さんがうってつけだ」
――なにそれ!
「それで、琴姫の片思いの相手って誰だろう?」
――え?
「琴姫は言っていた。私は、本当は好きになると長い人でずっと一人に片思いしている。村家さんは何かその辺りを詳しくないかな?」
――そんなの嘘だよ。
「それで『俺、待っている』って言ったら『待たないで』って……」
 私はここで悪魔が囁いた。
 私は本当の表情を隠して「柊部長だよ。前に琴音さんに打ち明けられた」と言う。
 松岡くんは雷に打たれたような顔で驚きながら「はあ?」と言う。
「琴姫は柊部長の事は『嫌い』って言っていたよ?」
 私は咄嗟の判断で、――自分のオデコをパンと叩いて「あいたたた」という反応をする。
 そして松岡くんに言い放った。
「何一つ本当の事を教えて貰えていないなら諦めなよ」
 松岡くんは「あ……あの……そこまで言われる謂れはない……」と言う。
「村家さんは俺を馬鹿にしている」
 私はドキッとした。
――まずい! 怒らせた?
 しかし松岡くんはフッと息を吐く。
「村家さん。……でも今日は重大な情報をくれてありがとうございます」
 松岡くんはカフェオレの残りをグイッと飲みほした。
「もう少し男らしくするから俺の事を悪く思わないでくださいね」
 私は、思わず尋ねる。
「琴音さんの何がいいの?」
「一緒にいて楽しい」
「見た目とかじゃないの?」
「見た目は関係ないよ」

――いつも思うけれど、誰も青いあざをなんとも思っていないな。