さくらいろのあお

 私は後を追うように文化部室棟の廊下へ。
「どうしたの? 前田くん」
 前田くんは頭をコチンと叩きながら「三石が……うるさい……」と言う。
「なにそれ?」
「集中できない」
「そっか。落ち着いたら戻っておいで」
 うるさいってどんな心理だろうな?
――私は部室に戻った。
 部室の玄関扉に貼ってあるポスターは今月中旬に行われる「高校将棋選手権大会県予選」の案内だ。
 琴音さんは手が空いていて、松岡くんとお喋りしている。
 私はここで悪戯心が湧いて、柊部長に向かって、
「琴音さんと対局してはどうですか?」
 とすすめた。
 聞こえる声で言ったから、琴音さんと松岡くんの会話がハタッと止まる。
 柊部長は「じゃあ! 三石さんと指そうかな!」と言う。
 琴音さんは「はい! アマ三段の柊部長となら稽古になります!」と快諾する。
――部長も頑張れ。
 柊部長は「松岡くん。ちょっとゴメンね」と言って松岡くんを席から立たせた。
 柊部長はそのまま空いた正面の座席に腰掛ける。
「宜しくお願いします」
 そして向かいの琴音さんに礼をする。
 ――その時、私は人が戻ってくる気配を感じた。
 前田くんが戻って来たのだ。
「村家」
 私は振り返って、戻って来た前田くんを見る。
「前田くん。どうしたの?」
 前田くんは、何か疲れたような顔だ。
「帰る」
――え?
「俺、今日はもう帰る」

――ここで、私も帰ると言ったらどうなるのだろう?

「そっか。じゃあ、松岡くん、はじめから指そう」
――バイバイ。シーユーアゲイン。
 私はそう言って、手の空いている松岡くんを呼んだ。