闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜





「食べてもいい?」




その時、ふと碧くんが嬉しそうに私を見て言った。




私が頷くと、彼はすぐに頬張るように
おかずを口に詰めた。




またあの『秘密基地』で過ごした
時間と同じように、




彼と笑い合いながら、お弁当をつまむ。






碧くんとの時間は
こんなにも自由で、息がしやすい。






今の私には、





これが恋なのか

それともただの逃避なのか





もう分からなかった。





「美桜ちゃんって、大学卒業したら何の仕事に就きたいとかもう考えてる?……やっぱデザイン系とか?」





お弁当を食べ終わった頃、ふと彼が言った。
それは、私の「将来」の話だった。





「……うん。いつか、できたら」

「あ、やっぱり? 美桜ちゃんが描いてた文化祭の看板、すごくセンスあったし、描いてる時も生き生きしてたから、そうかなって思ってた」





碧くんの言葉に、私は黙り込む。





「………」





それは、颯がいつも私に言う

「お前には俺がいるから、何もしなくていい」

という言葉がすぐに頭に浮かんだからだ。





「……でも、お兄——」

「”お兄ちゃん”じゃなくて、美桜ちゃんの幸せはどうなの? 全部決められて、それで幸せなの?」

「………え?」





私の言葉を遮るように言った
碧くんの言葉は重く、





私の胸の奥に問いかけるように響いた。





自分の幸せなんて、あまり考えたことはなかった。


——いや、考える必要がなかった。





「……なんて、俺が言えた立場じゃないか」





その小さく、低く漏れた声に
ふと横を見たその瞬間、




至近距離で視線が絡んだ。




え——?





少し冷たい風が、数センチの距離をすり抜け、
その指先が私の髪に触れた。





私は、目を閉じる余裕もなくて——





「葉っぱついてた」





………え?





私の中の全てが一瞬フリーズする。





「ほら」





碧くんが私の髪についていた
紅葉の葉を笑顔で私に見せる。





「……あ、ありがとう」





一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしい。





耳が一気に熱くなり、思わず下を向く私に
碧くんがくすっと笑う。



すると突然、何かが耳に掛けられた。
視界が、ぐんと広くなる。





「………へ?」


「うん、似合うね」





いたずらっぽく目を細めて笑う碧くん。



私の顔には、彼が掛けていたはずの
黒ぶちメガネが掛けられていた。





「こうやって視野を広げないと」





呆然と固まる私に碧くんが
ふっと表情を和らげて言う。






「大事な『幸せ』を、見逃すかもしれないし」






その瞬間、強く胸が鳴った気がした。