闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***



翌日。
秋の澄んだ空が広がる土曜日の朝。




コートを着て、玄関に向かった時——




スマホが震えた。





『今日は合宿でいないけど、ご飯一人で大丈夫か?』





颯からだった。
彼は、明日の朝まで帰ってこない。





『うん、大丈夫だよ。心配ありがとう』



『今日は大学の図書館に籠るから、大学で食べてくるね』





私は生まれて初めて、

颯に完全な「嘘」をついた——。




***





「あ、美桜ちゃん。いたいた」





紅葉が赤く鮮やかに並ぶ公園の入り口。




ゆったりめのコートに
黒ぶちメガネをかけた碧くんが手を振っていた。




そのいつもとは違う、少し知的な雰囲気に、

胸がふいにドキッと鳴る。





「ごめん、待たせちゃった?」

「ううん、俺も今来たところ。……でもよかった、来てくれて」





碧くんがふっと笑い私の手を自然に取る。

冷えた私の指先を、自分のポケットの中へ誘う。






颯とは違う、対等で、優しい温もり。






私たちは並木道をゆっくり歩いた。




けれど、碧くんはあの文化祭の日——




ミスターコンが終わった後、
私を連れ去った颯のことに、




一度も触れようとはしなかった。





絵の具で描いたような水色の空に、
鮮やかな赤色の葉が風に揺れる。





私たちは紅葉した一本の木下に、
腰を下ろした。





「碧くん……あの、良かったらこれ……。この辺り、近くにランチできそうなところもないかなって思ったから」





私は今朝、

いつもより少し早く起きて作った
お弁当の包みを開いた。





「えっ……いいの?これ、美桜ちゃんが作ったの?」





私のぎこちなく詰み込まれたお弁当を
目を丸くしてじっと見る彼に、私は小さく頷いた。





颯が私に作ってくれたような完璧なお弁当じゃない。

料理は苦手だけど、不慣れなりに見様見真似で作ったもの。





「うん、いつも碧くんには迷惑かけっぱなしで。何かお礼しないとって思ってた。……でも、これくらいしかできなくて……」





本当は、それだけじゃない。





文化祭準備の時、作業を抜け出して
屋上で二人でお菓子を食べあさった




あの時間が楽しかったから。




また、碧くんと同じようなことをしたかった。





「お詫びだ」

「お礼だ」





と自分に言い聞かせて、

無意識に心の奥で





「碧くんに救われたい」





と思っている自分がいるのかもしれない。