闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜




彼は私の肩に手を置くと、



ミスターコンの優勝サッシュを
指先で滑らせるようにして床に落とした。





「……完璧だったろ? あの時の彼の顔、見たか? ……あんな安っぽいキャンドル一つで、お前を奪えると思っていたなんて……驚いたよ」





甘い蜜の中に毒を混ぜたような、

逃れられない響き。





颯は私の首筋に顔を寄せ、
深く、満足げに鼻先を埋めた。






「あいつはもう、二度とお前の隣に立てない。お前を『妹』として守る権利も、『女』として誘う隙も……すべて俺が、あの瞬間に奪い去ったんだから」






颯はサイドテーブルに置かれた、

チェスボードに手を伸ばす。






彼は、盤上にポツンと取り残されていた
「白いクイーン」を長い指先で拾い上げると、




私の目の前で、逃げ場を塞ぐように
「黒いキング」の真隣へと置いた。






「——チェックメイト」






カツン、と乾いた音が静かな部屋に響く。





チェスでは本来、
キングを追い詰めるのがルール。



クイーンを隣に置くなんて、
自殺行為でしかない。






——けれど。






彼は、最初からルールの上で遊んでいない。




ボードの上で最も『自由』に動ける
最強の駒、クイーン。




それを彼は、




私の進めるすべてのマス目を
自分の色で塗り潰し、




美しく塞いでいった。






「……もう、どこへも行けないよ」






颯という「キング」の隣以外、
居場所などないと、言わんばかりに、



私の人生という盤上から、
彼以外のすべてのマス目——選択肢を





力ずくで消し去ったのだ。





「……お兄ちゃん……」





その瞬間、手首が掴まれ、
冷たい目に変わる。





「もうその呼び方はやめろ、美桜」


「……!」





彼は私の顎をくいっと持ち上げた。





至近距離で見つめるその瞳は、
暗い海の底のように深くて、


抗えない。






「もうお前の耳にある『印』だけじゃ足りない。……今夜はお前の身体中を、俺の愛だけで満たしてあげたいんだ」






颯は私のバッグから、”あの”ポーチを取り出した。

そこに入っていたのは、





一本の鍵だった。