文化祭の喧騒が、
幻想だったかのように静まり返った夜。
私は、颯の部屋——
201号室のドアの前に立っていた。
「……入るよ、お兄ちゃん」
扉を開けた瞬間、ふわっと香ったのは、
濃厚な赤ワインとスパイス、
そして——
いつもよりずっと強い、”彼の香り”。
リビングに足を踏み入れた私は、
思わず声を溢した。
「……わぁ……」
テーブルの上にはキャンドルの火が揺らめき、
ホテルの高級レストランのような
フルコースが並んでいた。
そこには私が以前、雑誌を見て
「美味しそう」と呟いただけの
希少なステーキ。
彩り豊かなオードブルにスープ。
窓の外には後夜祭の名残である
花火が時折上がり、夜空を彩っている。
「おかえり、美桜。主役のお出ましだね」
キッチンから現れた颯は、
タキシードのジャケットだけを脱ぎ、
黒いシャツの袖を少し捲り上げていた。
その姿は、ステージの上よりもずっと、
生々しい「男」の色気を放っている。
「……お兄ちゃんが、これ全部……?」
「お祝いだから。……ほら、そこに座って」
颯は私の椅子を引き、
エスコートするように座らせた。
私の肩には、まだステージで彼にかけられた
「ミスター」のサッシュが残っている。
その重みが、彼に独占された
”証”のように感じられて、胸の奥が熱くなった。
***
食事はどれも、驚くほど美味しい。
けれど、颯は自分ではほとんど口をつけず、
私が食べる姿をじっと見つめている。
グラスに注がれたスパークリングジュースが、
キャンドルの光を反射して彼の瞳を妖しく輝かせていた。
「……ステージ、びっくりしたよ。あんなこと言われるなんて……」
「俺は、最初から賞なんて興味ない。ただ全世界に教えたかっただけなんだ」
そう言うとゆっくりと立ち上がり、
私の背後に回った。
「——お前が、誰のものなのかを」
耳元で響く、わずかに低い声。
私の背筋に、ゾクっと冷たいものが走る。

