恋が終わっても、人生は続いていく



「……話があるの」



その一言を言うまでに、

どれくらい時間がかかっただろう。



リビング。



いつもと同じ夜。



テレビの音だけが流れている。





「何」



夫は、

視線を画面から外さないまま言う。





(やっぱり)





最後まで、

こっちを見ないんだ。





「……ちゃんと聞いて」





少しだけ強く言う。





その声で、

やっと視線が向く。





「何だよ」





少しだけ、

面倒そうな顔。





(……これが現実)





あの時間とは、

全然違う。





「……別れたい」





静かに言う。





空気が、

一瞬だけ止まる。





「……は?」





夫の顔が、

わずかに歪む。





「何言ってんの」





「離婚したいの」





言い直す。





逃げないように。





「急に何だよ」





苛立った声。





「急じゃないよ」





「ずっと思ってた」





本当は、

ずっと前から。





「何が不満なんだよ」





「不満っていうか……」





言葉を探す。





(どう言えばいいの)





「……何もないのが、つらいの」





それが、

一番近い言葉だった。





「意味わかんねえよ」





夫が、

苛立ったように立ち上がる。





「喧嘩もしてねえし」





「生活だってちゃんとしてるだろ」





「何が問題なんだよ」





その言葉に、

少しだけ笑いそうになる。





(そうだよね)





この人からしたら、

問題なんてない。





ちゃんと生活してる。



ちゃんと夫婦してる。





でも。





「……私、ずっと一人みたいだった」





静かに言う。





夫の動きが、

少しだけ止まる。





「話もないし」





「触れられることもないし」





「……女として見られてる感じも、ない」





言葉にするたびに、

胸が少し痛む。





「それが普通だろ」





あっさり言われる。





(ああ)





この人にとっては、

そうなんだ。





「家族なんだから」





その一言で、

全部がわかる。





(終わってる)





もう、

同じ場所にいない。





「……私は嫌だった」





はっきり言う。





「それだけ」





沈黙。





少しだけ、

長い時間。





「……誰かいるのか」





低い声。





一瞬、

息が止まる。





(……来た)





「……いる」





嘘は、

つかなかった。





その瞬間。





空気が、

一気に冷える。





「……最低だな」





吐き捨てるように言う。





(そうだよね)





わかってる。





責められるのは、

当然。





「そうだと思う」





静かに受け止める。





「でも」





一度、

息を吸う。





「それでも、戻れない」





それが、

答えだった。





「……ふざけんなよ」





声が荒くなる。





「自分勝手すぎんだろ」





「今さら何言ってんだよ」





怒り。



当然の反応。





でも。





「ごめん」





それしか言えない。





謝っても、

許されない。





それでも。





「……でも、決めたから」





目を逸らさずに言う。





これだけは、

譲れない。





沈黙。





長い、長い時間。





やがて。





「……好きにしろ」





低く、吐き出す。





それが、

終わりだった。







部屋に戻る。





ドアを閉める。





背中を預ける。





(終わった)





ゆっくりと、

息を吐く。





涙は、

出なかった。





ただ。





(やっと、自分で選んだ)





その感覚だけが、

残っていた。





怖い。





でも。





(進むしかない)





そう思った。