恋が終わっても、人生は続いていく

夜だった。

部屋の中は静かで、

時計の音だけがやけに響いている。



(遅いな……)



何度目かの、同じ思考。



出張に行ってから、三日。

連絡は、少しだけ来ていた。

短いメッセージ。

「着いた」
「今日は遅くなる」

それだけ。



(忙しいんだろうな)

そう思う。

理解しているつもりだった。



でも。



(声、聞きたいな)



スマホを手に取る。

画面を見つめる。



連絡、してもいいのかな。

迷う。



(迷うくらいなら、やめよう)



そう思って、

画面を閉じようとした、そのとき。



着信。



知らない番号だった。



(誰……?)



一瞬、ためらう。

でも。

なぜか。

胸がざわついた。



(嫌な予感……)



指先が、少し震える。



ゆっくりと、

通話ボタンを押す。



「……はい」



声が、少しだけ掠れる。



『――○○警察署ですが』



その一言で、

時間が止まった。



(……え?)



『お知り合いに、蓮さんという方はいらっしゃいますか』



耳に入ってくる言葉が、

うまく理解できない。



「……はい」



自分の声なのに、

どこか遠くで聞こえる。



『本日、交通事故に遭われまして――』



それ以上、

何を言われたのか、

よく覚えていない。



言葉が、

途中から、

音にしか聞こえなくなる。



事故。

病院。

重体。



断片的な言葉だけが、

頭の中に残る。



「……嘘」



小さく、呟く。



現実感がない。



(そんなわけない)



さっきまで、

普通に。



「大丈夫だろ」って、

言ってたのに。



(帰ってくるって)



言ってたのに。



『――すぐに来ていただけますか』



「……はい」



気づけば、

そう答えていた。





外に出る。



夜の空気が、

やけに冷たい。



どうやって歩いたのか、

覚えていない。



どうやって電車に乗ったのかも、

覚えていない。



ただ、

病院へ向かっていた。





白い建物。

明るすぎる照明。



受付で名前を言う。



案内されるまま、

歩く。



長い廊下。



足音だけが、

やけに響く。





「こちらです」



扉の前で止まる。



手が、震える。



(開けたら)



その先に、

現実がある。



(見たくない)



でも。



逃げられない。





ゆっくりと、

ドアを開ける。



白い部屋。



静かな機械音。



ベッドの上に、

横たわる人。





「……蓮、さん」



声が、

出ない。



近づく。



顔を見る。



目を閉じている。



動かない。



「……なんで」



言葉にならない。



手を、伸ばす。



触れる。





冷たい。





その瞬間。



すべてが、

理解できてしまった。





(まただ)



頭の中で、

同じ言葉が響く。



(私が好きになったから)



高校のときも、

そうだった。



今回も。



(私が、好きになったから)





「……嘘でしょ」



何度も、呟く。



「起きてください」



「ねえ……」



呼びかける。



でも。



返事は、

返ってこない。





その手を、

握る。



もう一度。





冷たい。





(いなくなる)



やっぱり。



(いなくなる)





涙は、

出なかった。



ただ。



何かが、

完全に壊れた音だけが、

心の奥で響いていた。





世界が、

止まった。