バイト帰りじゃなかった夜

 最近、毎晩のように通話する同級生がいる。

「今日もバイト帰り?」

 私はいつも、パジャマでベッドの上。
 彼は、バイト先から自宅までの帰り道。
 どうやら時間つぶしに電話してくるみたい。

『あー、うん。…疲れた、わ』

 スピーカー越しに聞こえる、少し鼻にかかった声が、好きだ。

 私は仰向けになって「おつかれさま」と言った。

『何してたん?』

「えー…勉強?」

 うそ。本当はキミからの着信を待ってました。

 ーーなんて、言えないけれど。

『嘘だろ』

「あはは、バレた」

『勉強してるやつは赤点とか取らないから』

「うるさいなぁ」

 こんなくだらないやり取りが、楽しい。

 でも正直に言えば、もっと近付きたい。

 キミの気持ちを、知りたい。

『つーか今日さ、頭にボール当たってなかった?体育のとき』

「な…!見るなし」

『あんだけデカい声で叫んでたら嫌でも目に入るって』

「なら助けに来てよね」

『は?』

「お姫様抱っこしてさ、保健室に運んでよ」

『アホか』

 ふと思う。
 なんで、私なんだろ。
 暇つぶしの通話相手なんか、他にもいるのに。

 期待…しちゃうじゃん。

「…ねぇ、私がさ、電話出なかったらどうするの?」

 こんな、遠回しな聞き方しか、できない。

『ん?…なにが?』

 私は、横を向いて、毛布を握りしめた。

「…他の人に、かける?」

 言った瞬間、電話の向こうで沈黙が流れた。

 あ、やばい。何言ってんだろ、私。

 慌てて「ごめん」と言おうとしたら、向こうが先に声を発した。

『なんで?』

「えっ…」

『俺に、何て言って欲しいの?』

 ーーずるい。
 絶対、私に言わせようとしてるよ、この人。

「べ、べつに、なにも…」

『ふーん』

 風の音も、車の走行音も、聞こえない。
 なんか、今日…やけに静かだな。

『…俺はーー、』

 彼が何か言おうとした時、奥から声がした。

『アンタいつまで電話してんの?虫入るでしょうが』

 ……え?

『やべ』

「…今の、お母さん?」

『……』

 何も返事がない。

「え?バイト帰りじゃないの?」

『…あー、今日は、休み…だった』

 彼は少し気まずそうに、そう言った。

 バイト帰りじゃないのに、電話してきたの?
 さっき、疲れたとか言ってたのに。

 私は、だんだんと自分の頬がゆるむのが分かった。

「へぇ〜」

『…なんだよ』

「大好きじゃん、私のこと」

『うっせーな、お前…明日、覚えてろよ』

 そう言い残し、ブチっと切れた。


 画面に映る自分の顔は、恥ずかしくなるほどニヤけていた。