クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

モニター前で先輩の手が私に触れてしまった日から数日。
お互い意識しすぎて視線を合わせられないまま、もどかしい時間が過ぎていた。

定時を少し過ぎた頃。私は気分転換に、マイボトルを持って給湯室へと向かった。
シュンシュンと沸くお湯の音だけが響く中、背後に誰かが入ってくる気配がしたので振り返ると、そこには珍しくカップを手にした先輩が立っていた。

「……あ。お疲れ様です、先輩」
「……ああ。お疲れ様」

狭い空間に、二人きり。
少し重い沈黙が流れたあと、先輩が視線を泳がせながら、小さな声で切り出した。

「……りんりん。この前のこと…ちゃんと謝罪させてほしい。もし都合良ければ…だけど、今日、帰り際に少しだけ時間もらえないか? 会議室をおさえてるから」

先輩の、申し訳なさで固まった余裕のない表情。

……その瞬間、胸の奥で何かが小さく跳ねた。

ここ数日、私はずっと「あの出来事のせいで、先輩に避けられてしまうんじゃないか」と、どこかで怖がっていた。
でも先輩は、自分からこうして話す時間を作ろうとしてくれている。

(……あ)

そこでようやく気づく。

……数日間、「どう動けばいいんだろう」と悩み続けていた私にとって、この「謝罪の場」はもしかしたら大きなチャンスになるのかもしれない。

(……先輩の言ってた「次の景色」……これだったんだ!)

一気に、視界が開けた気がした。

(……でも待って。会議室だといつもの上司の顔で謝罪されて終わっちゃいそうだから絶対ダメ……なんとか外に連れ出さないと…)

私は少しだけ考えてから、動揺と興奮を隠すように柔らかく笑ってみせた。