【凛視点】クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

資料の修正が終わったのは、フロアの時計が二十時を回った頃だった。

七月の日差しはとっくに落ちているのに、オフィスの空気はまだどこか熱い。冷房が効いているはずなのに、長時間デスクに向かっていると、じわじわと体が重だるくなってくる。
他の席はほとんどが暗くなっていて、残っているのも数人だけ。私はパソコンで作業していた資料を閉じて、大きく背伸びをした。

(やっと終わった……)

肩が凝っている。首も痛い。昨日も同じ時間まで残っていた。
すぐに帰り支度を始めればいいのに、波のように押し寄せてきた疲労感のせいか、椅子から立ち上がる気になれなかった。

静まり返ったフロアには、遠くで誰かが叩くキーボードの音と、空調の低い駆動音だけが響いている。
首の後ろを揉みほぐしながら、窓ガラスに反射する自分の疲れた顔をぼんやりと眺めていた。

(……明日も朝イチで打ち合わせだし、帰ったらお風呂に入ってすぐ寝なきゃ)

そんな取り留めもないことを考えながら、数分ほど放心状態になってしまう。
ふぅ、ともう一度小さなため息をつき、乾いた喉を潤そうと、マグカップに残った温くなったお茶に口をつけようとした——その時だった。