クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

見上げると、いつの間にか灰色の雲が重く垂れ込めている。次の瞬間には、アスファルトを黒く染める雨粒が、容赦なく降り注ぎ始めた。

「……降ってきたな」

先輩が低く呟き、足を止めた。
私たちが歩いていたのは、川に架かる長い橋のちょうど中腹あたりだった。
風を遮るものは何もなく、周囲を見渡しても雨宿りできそうな場所はない。橋を渡り切るにしてもまだ距離がある。
慌てて鞄を探ったけれど、折りたたみ傘は玄関に乾かしたままだった。

「すみません、私、傘を忘れて……」

謝りかけた私の視界に、一本の折りたたみ傘が差し出される。
先輩が自分の鞄から、迷いなく取り出したものだった。

「——りんりん、これ使って」

雨の音に混じって届いた、その言葉。
私は、差し出された傘を見たまま、心臓が跳ねるのを自覚した。