プレゼンが始まって、最初の10分は順調だった。
先輩がメインで説明を進め、得意先の担当者もうなずいている。
(いける、いけてる)
普段は無口で、打ち合わせでも最低限のことしか喋らない先輩が、今は淀みなく言葉を紡いでいる。
(…ていうか、先輩ってプレゼンだとこんなにスラスラしゃべるんだ……)
その意外さに少し見とれていたら、先輩がふいにこちらへ視線を向けた。
「では、ターゲット層の具体的な反応については、企画担当からご説明します」
「っ、はい!」
突然名前を呼ばれたみたいに感じて、私は慌てて我に返った。
(…落ち着いて。深呼吸。ゆっくり話せばいいんだから)
「はい。えーと、こちらが事前に行ったSNSでのコンセプト受容性調査の結果になります。
ターゲットに近い20代女性の間では、パッケージの透け感に対するポジティブな反応が非常に高く、ハッシュタグでの拡散意向も前回の1.5倍に——」
手元の資料を見ながら、練習した通りのフレーズを口にする。
モニターに映る鮮やかなグラフ。ここまでは完璧だった。
「特に、仕事終わりの自分へのご褒美としての購入意向は、既存商品の……えっ」
その瞬間だった。
テーブルを挟んだ向かい側で、得意先の担当者と部長が、ほぼ同時に首をかしげた。
(……あ)
印刷した資料の数値と、プロジェクターに映しだされている数値が、違う。
…あれ、どっちが正しい数値だっけ…?
(やばい。やばいやばいやばい。私、終わった——)
沈黙が、会議室に広がっていく。担当者が資料に視線を落としたまま、ペンを止めた。部長が眼鏡の奥で目を細める。
頭の中が真っ白になりかけたその瞬間——
隣に座っていた先輩が、静かに口を開いた。
「失礼いたしました。お配りした資料の数値、私のミスです。正しくはこちらになります」
動揺のかけらもない涼しい声だった。自分の責任として深々と頭を下げ、正しい数値をすらすらと口にして、そのままプレゼンの流れを引き取った。
私は、ただ座っていることしかできなかった。
先輩がメインで説明を進め、得意先の担当者もうなずいている。
(いける、いけてる)
普段は無口で、打ち合わせでも最低限のことしか喋らない先輩が、今は淀みなく言葉を紡いでいる。
(…ていうか、先輩ってプレゼンだとこんなにスラスラしゃべるんだ……)
その意外さに少し見とれていたら、先輩がふいにこちらへ視線を向けた。
「では、ターゲット層の具体的な反応については、企画担当からご説明します」
「っ、はい!」
突然名前を呼ばれたみたいに感じて、私は慌てて我に返った。
(…落ち着いて。深呼吸。ゆっくり話せばいいんだから)
「はい。えーと、こちらが事前に行ったSNSでのコンセプト受容性調査の結果になります。
ターゲットに近い20代女性の間では、パッケージの透け感に対するポジティブな反応が非常に高く、ハッシュタグでの拡散意向も前回の1.5倍に——」
手元の資料を見ながら、練習した通りのフレーズを口にする。
モニターに映る鮮やかなグラフ。ここまでは完璧だった。
「特に、仕事終わりの自分へのご褒美としての購入意向は、既存商品の……えっ」
その瞬間だった。
テーブルを挟んだ向かい側で、得意先の担当者と部長が、ほぼ同時に首をかしげた。
(……あ)
印刷した資料の数値と、プロジェクターに映しだされている数値が、違う。
…あれ、どっちが正しい数値だっけ…?
(やばい。やばいやばいやばい。私、終わった——)
沈黙が、会議室に広がっていく。担当者が資料に視線を落としたまま、ペンを止めた。部長が眼鏡の奥で目を細める。
頭の中が真っ白になりかけたその瞬間——
隣に座っていた先輩が、静かに口を開いた。
「失礼いたしました。お配りした資料の数値、私のミスです。正しくはこちらになります」
動揺のかけらもない涼しい声だった。自分の責任として深々と頭を下げ、正しい数値をすらすらと口にして、そのままプレゼンの流れを引き取った。
私は、ただ座っていることしかできなかった。
