彼女の部屋の玄関を跨いだ瞬間、外の冷気とは違う、彼女の生活の匂いに包み込まれた。
背後で響いた重い施錠の音は、俺から「上司」という逃げ道を完全に奪い去る、最後通告のように聞こえた。
電気もつけないままの部屋は、さっきまで歩いていた夜道の静けさとは、明らかに密度が違っていた。耳が痛くなるほど濃い沈黙。カーテンの隙間から差し込む街灯の青白い光が、暗がりに沈む二人の足元を幽かに照らしている。
俺は玄関の暗がりに立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。
迷っているわけじゃない。
一歩進めば、もう今までのままではいられない。その引き返せない一線の重みに、俺は静かに呼吸を繰り返していた。
俺のこの沈黙を、彼女はどう感じただろうか。促すように、あるいは導くように、彼女がそっと俺の袖を引いた。
「……先輩、こっち、です」
その小さな手の感触に、肺の奥に溜まっていた熱い吐息を一つ吐き出す。
俺は彼女の熱に導かれるまま、靴を脱ぎ重い足取りでその後についていった。
背後で響いた重い施錠の音は、俺から「上司」という逃げ道を完全に奪い去る、最後通告のように聞こえた。
電気もつけないままの部屋は、さっきまで歩いていた夜道の静けさとは、明らかに密度が違っていた。耳が痛くなるほど濃い沈黙。カーテンの隙間から差し込む街灯の青白い光が、暗がりに沈む二人の足元を幽かに照らしている。
俺は玄関の暗がりに立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。
迷っているわけじゃない。
一歩進めば、もう今までのままではいられない。その引き返せない一線の重みに、俺は静かに呼吸を繰り返していた。
俺のこの沈黙を、彼女はどう感じただろうか。促すように、あるいは導くように、彼女がそっと俺の袖を引いた。
「……先輩、こっち、です」
その小さな手の感触に、肺の奥に溜まっていた熱い吐息を一つ吐き出す。
俺は彼女の熱に導かれるまま、靴を脱ぎ重い足取りでその後についていった。
