やがて、彼女の足が緩やかに止まった。
視線を向けると、こじんまりとしたマンションのエントランスが見えた。
深夜の住宅街は、耳が痛くなるほどしんと静まり返っている。エントランスの琥珀色の明かりが、アスファルトの上に二人の影を長く、くっきりと落としていた。
「……送ってもらって、ありがとうございました。先輩、今日は本当に楽しかったです」
立ち止まり、彼女が振り返る。
精一杯の、明るい後輩としての笑顔。だが、その頬は強張り、声は切ないほど震えていた。
その無理をした笑顔が、俺の胸をひどく締め付ける。
「ああ、俺も楽しかったよ。……じゃあ、また明日」
これ以上彼女の顔を見ていたら、俺の中に残った最後の理性が吹き飛んでしまう。
逃げるように踵を返し、駅の方へ歩き出そうとした。
背中が重い。足に鉛が入ったように動かない。本当は、一歩もここから離れたくなどない。
それでも無理やり前へ進もうとした、その時だった。
――ぐっ。
コートの袖が、強く引かれた。
振り返るまでもない。彼女の小さな手が、絶対に離さないという強い意志を込めて、俺の袖を握りしめていた。
視線を向けると、こじんまりとしたマンションのエントランスが見えた。
深夜の住宅街は、耳が痛くなるほどしんと静まり返っている。エントランスの琥珀色の明かりが、アスファルトの上に二人の影を長く、くっきりと落としていた。
「……送ってもらって、ありがとうございました。先輩、今日は本当に楽しかったです」
立ち止まり、彼女が振り返る。
精一杯の、明るい後輩としての笑顔。だが、その頬は強張り、声は切ないほど震えていた。
その無理をした笑顔が、俺の胸をひどく締め付ける。
「ああ、俺も楽しかったよ。……じゃあ、また明日」
これ以上彼女の顔を見ていたら、俺の中に残った最後の理性が吹き飛んでしまう。
逃げるように踵を返し、駅の方へ歩き出そうとした。
背中が重い。足に鉛が入ったように動かない。本当は、一歩もここから離れたくなどない。
それでも無理やり前へ進もうとした、その時だった。
――ぐっ。
コートの袖が、強く引かれた。
振り返るまでもない。彼女の小さな手が、絶対に離さないという強い意志を込めて、俺の袖を握りしめていた。
