クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

「歌うのが苦手なのに、それでも書かずにはいられなかった言葉……それって、先輩の中にずっと吐き出したかった思いがあったってことですよね?」
「…………大したことじゃない。……ただの、青臭い独り言だ」
「嘘です。……先輩はいつも、仕事ではロジカルで無駄がない言葉しか選ばないじゃないですか。……だからこそ、その裏側にある、本音を知りたいんです」

カラン、とグラスの中で氷が鳴る。
彼女の問いかけは、もはや「歌詞」のことなど指していない。
「上司という鎧を脱いで、俺の本当の声を聴かせてほしい」――それは、俺の本音を引き出そうとする、静かな挑戦状だった。

(……知って、どうするんだ……)

俺の本音は、綺麗なものなんかじゃない。
……君をこのまま抱き寄せたい。どこへも行かせたくない。仕事も、立場も、全部投げ出して。

だが……そんなものを口にした瞬間、きっと全部壊れる。
彼女はまだ若く、未来に満ち溢れている。俺のような、ただ裏方で帳尻を合わせるだけのような男が、彼女の隣にいていいはずがない。
今のこの熱情だって、酒と夜の空気が見せている幻かもしれないのだ。