クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

「あっ、でも先輩、勘違いしちゃ駄目ですよ? 女の子にボディタッチなんて、本当は即レッドカード、一発退場ですからね!」
「……っ、すまん……」
「でもほら! 今回は事故だったし。……先輩の手が、ちょっと滑っちゃっただけですよね?」
「…そ、そうか……。なら良かったけど……」

(……嘘だろ。あんなに悩んだ数日間は、一体何だったんだ……?)

張り詰めていた緊張の糸が、プツリと切れる音がした。
俺がセクハラをしたという「絶対的な負い目」すらも、彼女は持ち前の明るさでいとも簡単に笑い飛ばしてしまったのだ。

すっかり毒気を抜かれ、安堵と疲労で肩を落として一息つこうとした時、間髪入れずに彼女は至近距離で満面の笑みを向けてきた。

「そんなことより先輩! 私たち、こうやって二人きりで飲むのって初めてですよね!」
「……そ、そんなことよりって……りんりん、お前な……」
「色々聞いちゃってもいいですか? 私、先輩に聞いてみたいこと、山ほどあるんですっ」

完全に、彼女のペースだった。
「謝罪」という重苦しい盾はとうの昔に奪い取られ、俺はただの「酒の席の相手」としてカウンターに引きずり出されていた。