クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

「……ああ。……手加減してくれ」

自然と口角が緩む。
同時に、無理やり押し込めていた感情が、彼女の笑顔ひとつでいとも簡単に引きずり出されていくのを自覚していた。

「決まりですね! でも、一緒に社内を出ると目立ちますよね。19時半に◯◯駅の南口改札の前待ち合わせでどうですか?」
「◯◯駅南口か……分かった」

俺は先に給湯室を出て、自席へと戻る廊下を歩きながら、小さく息を吐いた。

(……完全に、彼女のペースだな)

謝罪するはずが、結果的に二人で食事に行く約束を取り付けてしまった。
……しかし、場所が会議室から外に変わっただけで、今夜やるべきことは何も変わらない。どんな雰囲気になろうと、きちんと頭を下げる。それだけは、絶対に曲げるつもりはなかった。

ただ——二人きりの食事の席で、果たして自分の理性が持ち堪えられるのかという、新たな恐怖が首をもたげていた。
それでも、足取りは数日前とは比べ物にならないほど軽かった。