クールで無口な先輩、実は天然で優しすぎる。――新人の私がその距離をゼロにするまでの600日

シュンシュンと沸くお湯の音だけが響く、狭い空間。
給湯室に入った俺の気配に気付いて振り返った彼女の目は、少しだけ驚いてるように見えた。

「……あ。お疲れ様です、先輩」
「……ああ。お疲れ様」

狭い空間に、二人きり。
少し重い沈黙が流れる。逃げ出したい衝動を必死に押さえ込み、俺は視線を泳がせながら、ようやく声を絞り出した。

「……りんりん。この前のこと…ちゃんと謝罪させてほしい。もし都合良ければ…だけど、今日、帰り際に少しだけ時間もらえないか? 会議室をおさえてるから」

どんなに冷たい目で見られても、罵られても構わない。誠心誠意、頭を下げるつもりだった。
彼女はすぐには答えず、少しだけ視線を落としてから言った。

「……あ、それ。ずっと気にしてたんですね? 先輩、真面目すぎますよ」

予想外に柔らかい声が返ってきて、俺は弾かれたように顔を上げた。
彼女は、俺を軽蔑するどころか、少しだけ困ったように、けれどどこか楽しげに笑っていた。