まだ空調が効き始めたばかりの、静かなオフィスフロア。
二人の足音だけが、高い天井に交互に響く。
先輩の背中はいつも通り大きくて隙がないけれど、心なしか、私の歩調に合わせていつもよりゆっくりと歩いてくれているような気がした。
(……気のせい、じゃないよね)
エレベーターの中では逃げ場がなくて焦っていた、あの耳の赤さ。
見えないはずの空き缶を理由にした、精一杯の照れ隠し。
(……なんか朝からちょっとホッコリしちゃった。先輩、ありがとうございます)
隣に並ぶにはまだ少し遠い、その広い背中に向かって、心の中だけでそっと呟いた。
執務室に入って足を止めた先輩は、一度だけ短くこちらを振り返り、いつもの落ち着いた声で言った。
「……よし。……仕事、始めるか」
「はいっ!」
まだ人の少ない、朝の光が差し込むフロア。
自分の席に着いた私は、パソコンを立ち上げながら、持参したマグボトルのコーヒーを一口飲んだ。
ブラック派の先輩とは違う、ミルクと砂糖が少しだけ入った優しい味。
数日前の夜、先輩がそっと渡してくれたあの微糖と同じくらい、今の気持ちは甘くて温かかった。
二人の足音だけが、高い天井に交互に響く。
先輩の背中はいつも通り大きくて隙がないけれど、心なしか、私の歩調に合わせていつもよりゆっくりと歩いてくれているような気がした。
(……気のせい、じゃないよね)
エレベーターの中では逃げ場がなくて焦っていた、あの耳の赤さ。
見えないはずの空き缶を理由にした、精一杯の照れ隠し。
(……なんか朝からちょっとホッコリしちゃった。先輩、ありがとうございます)
隣に並ぶにはまだ少し遠い、その広い背中に向かって、心の中だけでそっと呟いた。
執務室に入って足を止めた先輩は、一度だけ短くこちらを振り返り、いつもの落ち着いた声で言った。
「……よし。……仕事、始めるか」
「はいっ!」
まだ人の少ない、朝の光が差し込むフロア。
自分の席に着いた私は、パソコンを立ち上げながら、持参したマグボトルのコーヒーを一口飲んだ。
ブラック派の先輩とは違う、ミルクと砂糖が少しだけ入った優しい味。
数日前の夜、先輩がそっと渡してくれたあの微糖と同じくらい、今の気持ちは甘くて温かかった。
