社内で先輩と二人きりになるのは、あのプレゼンの帰り以来だった。あの時はお互い、得意先への行き帰りという「仕事」という文脈があったから、まだ良かった。でも今は、ただのエレベーターだ。朝の、何でもない時間だ。
(何か話さなきゃ。明るくしなきゃ…そうだ!)
「あの、先輩。こないだはコーヒー、ありがとうございました。……すっごく美味しかったです」
「……いや。別に、大したことじゃない」
正面を向いたままの先輩に、少しだけ勇気を出してずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あの…なんで私が『微糖のアイス』好きだって、知ってたんですか? 先輩、打ち合わせではいつもブラックですよね」
「……っ」
先輩の肩が、微かに揺れた。
「……いや…頭が疲れた時は糖を取るのが理にかなってると思って。……君があの時ずっと、眉間にギュッとしわを寄せてPCを睨んでたのにふと気づいたから」
「ええっ、私、そんな顔……!」
(……待って。私、そんなにずっと見られてたの?)
一瞬、ドキッとした。
上司にそこまで細かく観察されていたと考えると、普通なら少し身構えてしまうかもしれない。でも、不思議と嫌な気はしなかった。先輩の言葉の裏に、ミスを待ち構えるような「監視」ではない、不器用な気遣いが透けて見えたからだ。
「……ああ。それと君のデスクの端にいつもあの微糖の缶が置いてあるのが……たまたま目に入っただけ」
淡々と、いつもの冷静な口調。
でも、その耳の端が、ほんの少しだけ赤くなっている。
(……やっぱり、嘘だ)
正面の扉を見つめながら、私はこっそりと口元を綻ばせた。
私の表情だけならまだしも、私のデスクの端にある小さな空き缶なんて、遠い先輩の席から「たまたま」見えるはずがない。
パーテーションもあるし、この距離をわざわざ歩いてきて、気にかけてくれない限り。
(……先輩、そこまでして私のこと、見てくれてたんだ)
(何か話さなきゃ。明るくしなきゃ…そうだ!)
「あの、先輩。こないだはコーヒー、ありがとうございました。……すっごく美味しかったです」
「……いや。別に、大したことじゃない」
正面を向いたままの先輩に、少しだけ勇気を出してずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あの…なんで私が『微糖のアイス』好きだって、知ってたんですか? 先輩、打ち合わせではいつもブラックですよね」
「……っ」
先輩の肩が、微かに揺れた。
「……いや…頭が疲れた時は糖を取るのが理にかなってると思って。……君があの時ずっと、眉間にギュッとしわを寄せてPCを睨んでたのにふと気づいたから」
「ええっ、私、そんな顔……!」
(……待って。私、そんなにずっと見られてたの?)
一瞬、ドキッとした。
上司にそこまで細かく観察されていたと考えると、普通なら少し身構えてしまうかもしれない。でも、不思議と嫌な気はしなかった。先輩の言葉の裏に、ミスを待ち構えるような「監視」ではない、不器用な気遣いが透けて見えたからだ。
「……ああ。それと君のデスクの端にいつもあの微糖の缶が置いてあるのが……たまたま目に入っただけ」
淡々と、いつもの冷静な口調。
でも、その耳の端が、ほんの少しだけ赤くなっている。
(……やっぱり、嘘だ)
正面の扉を見つめながら、私はこっそりと口元を綻ばせた。
私の表情だけならまだしも、私のデスクの端にある小さな空き缶なんて、遠い先輩の席から「たまたま」見えるはずがない。
パーテーションもあるし、この距離をわざわざ歩いてきて、気にかけてくれない限り。
(……先輩、そこまでして私のこと、見てくれてたんだ)
