トンネルの向こうからさしこむ光の中で

 
 祖父母との楽しい夕食の会話につられて、光太は小学生時代から今までのいろんな出来事を思い出していた。

 父親の仕事がうまくいきだして、卒業するころには貧しい生活を抜け出していた。
 中学生になって初めて、母親から「おこづかい」をもらって買ったのが、あのシャープペンシルにもなる、めずらしい形をした大きな銀色のボールペンだった。
 大切に使って、三年間愛用したそのペンは、今は無い。

 光太は、東京に戻ったらすぐ、澪子に渡したものと同じボールペンを買おうと思った。
「同じものがもう一つあるから」
 澪子にそう言った。必ず同じものを持っていようと思った。


 一度にたくさんの記憶がよみがえって目がさえてしまった光太は、そっとふとんを抜け出して外に出た。
 月はすでに沈んで星のよく見える夜だった。
 北斗七星が高く上っていた。七つの星が澄んだ大気の中で道しるべのように光っている。

 光太は大きく深呼吸をしながら、さらに上の方へと目を移していった。
 すると、
「あれっ?」
 
 真上の空でピカッと光るものがあった。
 ピカッ、ピカッ、ピカッ、ピカッ。
 ゆっくり五回光って消えた。
「おかしいな。飛行機なら動くはずだが……。それに雲もないのに消えるなんて」
 不思議だったが、このときの彼にはあまり気にならなかった。宇宙は謎だらけだ。でもなぜだか、それが怖いのではなく、逆に心が温かくなるような気がしていた。

 その五回の点滅を見て、
「あ、り、が、と、う……」
 自然にそんな言葉が浮かんだ。今まで、たくさんのことがあった。苦しいことも悲しいことも……。
 でも、自分が気づかないところで、いつもだれかが見てくれていた。
 星を見上げながらそう思った。

 そして光太は、科学を真剣に勉強してみたくなった。
 時間は、過去から未来へと真っすぐな川のように流れている。人もそう言うし自分もそう感じている。
 しかし、もし時間が直線ではなく曲線だとしたら? あるいは、輪のように円くなっているのだとしたら……? 一本でなく、何本も(から)み合っているのだったら……?

「おじいちゃんが言った。人間はこの宇宙のほんの少ししか知らないって。無限の宇宙には人間に分からないことが、それこそ無限にあるんだ」

 ありえない経験をした。しかし、自分には確かにあったことだった。
「トンネルで見たあの銀色の服の人たちが何者なのか、どこから来たのか、それは分からない。けれど、間違いなくいた……」
 自分が確かめるべきだと思った。
「この石も自分の力で調べてみよう」
 ポケットの石を強くにぎってそう思った。

 光太の胸に新しい決意が芽生えていた。
 彼は、きらめく星々を見上げながら大きく息を吐き、ゆっくりと吸い込んで静かにうなずいた。



 第二部
 光太
 了



 ここまで読んでいただいてとても嬉しいです。次の部で物語は終末に向かいます。最後までお付き合いいただければ大変ありがたく思います。