ミッドナイト・ヴェノム




「七夏」




勉強会、当日。



待ち合わせ場所に立っていると、遅れて家を出発した怜悧が集合場所に到着した。



落ち着いた私服を着て、勉強道具が入ったトートバッグを持っていて――うん、普通の高校生に見える。




「おはよう、怜悧。私服かっこいいね」



「七夏もね。髪型も服も、ぜんぶ似合ってる」




甘い笑顔を浮かべた怜悧は、迷わず私の髪を撫でてから私を見つめる。



その瞳の奥に狙うような光を見た私は、一瞬狼狽えて、少しだけ後ずさった。



……怜悧、なんか甘い?



わかんないけど、いつもの「春野 怜悧」と雰囲気が違う、気がする……。




「……ねえ、七夏」



「な、に?」




私の頭を撫でていた怜悧の手は、私の頬を滑って目尻をなぞった。



それから甘やかで花が綻ぶような笑みを浮かべた彼は、こてんと首を傾げる。




「勉強会が終わったら、デートしない?」



「!」




デートってもしかして、普通の高校生たちがやるようなお出かけしようって、言ってる?



しかも「今」誘ってるってことは、「春野 怜悧」と「樋口 七夏」でデートしようって意味?



怜悧、本当に恋愛に踏み込む気……⁉︎




「それって……」



「七夏と2人でお出かけしたいって、いつも思ってたんだ。だめ?」



「だめじゃない、けど……」




だめじゃない。だめじゃないよ。



でもいきなりそこから仕掛けてくるとは思わなかった。




「……勉強会、時間かかるかもよ?弦くん数学苦手だし」



「大丈夫。あいつ勉強してないだけで、バカじゃないからさ」



「それは、そうなんだよなあ……」




ハンドボールの大会は一息ついたみたいだし、今なら弦くんも勉強を頑張れるだろう。



そうしたら少なくとも、お昼前には終われるかもしれない。




「それで、いっぱい俺のことアピールさせて。俺のこと好きになってもらえるように」



「……っ」



「俺の気持ち、もう伝えたよね?」




好きだよ、と。



私たちは何回もそう言い合ってきた。



でもそんな中で、私が作戦のために怜悧じゃなくて弦くんを選んだことに激情に駆られて、あの日に私たちは一線を超えて唇を重ねた。



そのときの会話から、怜悧がいつもと違う「好き」を私に向けてきているのは、わかっている。




「俺、頑張るから。だからその一歩として、デートしよ」




怜悧の長い指に、するりと私の指が絡め取られた。



視線や仕草、言葉や声の端々にまで恋情を滲ませている怜悧の行動は、果たして本物なのか嘘なのか。



それを確かめる前には既に、私の胸の奥で恋心が膨らみ始めていた。



そんな私が、彼の誘いを断れるはずがない。




「……わ、かった」



「!」



「いいよ。しよ、デート」




視線を逸らして、それでも繋がれた手を握り返して。



私は、初めて怜悧から言われたデートのお誘いに頷いた。



だって、私を見つめる怜悧の目が熱くて濡れてて甘い以上に……あんまりにも真面目だったから。



だから、私は了承する以外の選択肢を選ぶことなんてできなかった。